×

社説・コラム

天風録 『ツツ節@ヒロシマ』

 非白人を差別する政策アパルトヘイトを撤廃した南アフリカ共和国はそれ以来、多様性を尊重する「虹の国」または「虹の民の国」と呼ばれてきた。その名付け親とされるツツ元大主教が、非暴力を貫いて90年の生涯を閉じた▲「一人一人が道徳的な雰囲気をつくり、政治家が戦争を行えない状況をつくるべきだ。国民がその国の指導者に『戦争は嫌だ』と言うことで、正義に基づいた平和は築かれる」。1986年に被爆地広島で語っている▲南アの民主化に尽力した後も、歯に衣(きぬ)着せぬ「ツツ節」は衰えない。貧富の格差解消が不十分などと黒人政権にも批判を浴びせた。そして20年ぶりに再訪したヒロシマで…▲「残虐な迫害をした白人が事実を告白し、自らの責任に正面から向き合うことで、黒人の気持ちが収まっていった」と祖国の歩みを振り返った。そうして得る「許し」とは「なかったことにするのではなく、双方が傷口を開いて消毒する作業」とも▲多様性を踏みにじる行為にツツ節のトーンは高まった。2008年には中国のチベット政策に反発し、北京夏季五輪の開会式を欠席するよう各国首脳に呼び掛けている。政治ボイコットの先駆けと言えよう。

(2021年12月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ