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米軍岩国基地 再編交付金延長 <下> 懸念

対中戦略 機能強化進む

 極東最大級の航空基地、米軍岩国基地(岩国市)から西に約2キロ。同市牛野谷町の広場に21日、基地の機能強化に反対する約30人が集まった。「外来機が次々と岩国に来る」「市民が安心できる状況にない。国も米軍の言いなりだ」―。米アラスカ州の空軍基地から3日、初めて岩国基地に飛来したステルス戦闘機F35A部隊の騒音被害を訴える声が相次いだ。

 岩国を拠点に約2週間、訓練を繰り返したF35Aは最大12機。離陸直後にほぼ垂直に急上昇する空軍特有の飛行は、電車が通る時のガード下に相当する100デシベルを超える爆音をまき散らした。集会でマイクを握った「住民投票を力にする会」の松田一志代表は「基地の機能強化は新たな段階。直ちに新たな抗議運動を起こさなければ」と危機感をあらわにした。

外来機や艦船

 岩国基地には3月にも米ハワイ州の基地から米空軍のステルス戦闘機F22ラプター6機が飛来し、約1カ月間訓練した。人がうるさいと感じる70デシベル以上の騒音は同月、基地南側の尾津町で1746回を記録。2010年5月の滑走路沖合移設以降の月別で最多だった。

 さらに基地には9月、事実上の空母に改修中の海上自衛隊の護衛艦いずもが寄港。10月の米海軍遠征洋上基地ミゲルキース、11月の米海軍強襲揚陸艦アメリカなども次々と立ち寄った。

 外来機や大型艦船が岩国に突然、頻繁に来るようになった背景を「米軍の戦略の変化がある」と解説するのは、在日米軍の動向に詳しい沖縄国際大法学部の野添文彬准教授(国際政治学)。中国がミサイル能力を強める中、米軍は兵力を特定の基地に固定せず、臨機応変に展開し、競争相手の予測を難しくすることで優位を保つ「動的戦力運用」と呼ぶ戦略を採用しているという。

 野添准教授は「岩国基地は滑走路と港がセットであり、地元自治体も協力的。米軍にとって非常に使い勝手がよい。台湾海峡を巡る米中の緊張が続く中、中国に近い沖縄の兵力を分散させる意味でも重要性が増している」と指摘する。

 今月19日、岩国市を訪れた地元山口2区選出の岸信夫防衛相は、岩国に相次ぐ外来機や大型艦船の展開について「安全保障環境が厳しさを増す中、抑止力維持のために必要」と述べた。その5日後、米軍再編交付金の後継となる交付金を新設し、22年度から15年間、岩国基地周辺の2市2町に再編交付金と同額程度を支給する方針を表明した。

「禁断の果実」

 国は07年度、米空母艦載機を岩国基地に移転する再編計画に反対する岩国市に対し、容認に転じるまで再編交付金の支給を止めた経緯がある。当時の市長で政治団体「市民政党『草の根』」の井原勝介代表は警告する。「再編交付金は禁断の果実。いったん手を付けた自治体はこの財源に依存し、国にものが言えなくなる。後継の交付金も新たな基地負担を呼び込む恐れがある」(永山啓一)

米軍再編交付金の後継制度

 2018年3月に米空母艦載機約60機の移転が完了し、所属機が倍増した米軍岩国基地の周辺自治体を対象に22年度から15年間、国が支給する交付金制度。21年度で期限切れとなる再編交付金の後継として新たに設けた。22年度は岩国市と山口県和木町、周防大島町、大竹市だけが対象で交付額の見込みは計21億5千万円。15年間の総額で約320億円となる見通し。新たな交付金の名称や詳細な要件は防衛相が今後、国会議決の必要のない「訓令」で定める。

(2021年12月28日朝刊掲載)

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