4日からNPT再検討会議 行方注視の専門家に聞く
22年1月6日
核兵器保有国と非保有国が核軍縮の道筋を話し合う核拡散防止条約(NPT)再検討会議の開幕が、2022年1月4日に迫る。191カ国・地域の代表が集う貴重な場。交渉が決裂した前回15年の失敗を糧に、合意文書を採択することはできるのか。行方を注視する2人の専門家に、議論のポイントや「核兵器なき世界」を目指す岸田文雄首相(広島1区)が果たすべき役割を聞いた。(樋口浩二)
核廃絶の大原則再確認
―今回の再検討会議のポイントをどう見ていますか。
各国が核兵器の廃絶を目指すという大原則を改めて再確認できるかどうかが最大の課題だ。これまでの会議では2000年の「核兵器廃絶の明確な約束」をはじめ、究極的に核廃絶を目指すという合意が交わされている。
核兵器保有国はこうした合意などなかったかのような軍拡の動きを見せている。「環境が整わないと軍縮はできません」などという理屈は通らない。過去の合意に基づき、確実に核廃絶を目指す一致ができるかが問われている。
―前回に続いて合意文書が採択できなければ、NPTの存在意義が失われるとの指摘もあります。
今回も不調に終わった場合、「もう脱退する」という非保有国が出てきかねない。そもそもNPTは米国、ロシア、英国、フランス、中国だけに核保有を認め、削減義務も緩やかな不平等条約といえる。今回も保有国の姿勢が変わらなければ、信頼性は失われる。
―日本政府の役割は。
被爆地ヒロシマの訴えと重なる。「核兵器がひとたび使われると取り返しがつかない。もうやめよう」と胸を張って言うことだ。最終合意文書に「核の非人道性」を明記するよう各国を導いてほしい。
―「核兵器なき世界」を目指す岸田文雄首相に何を期待しますか。
米国の「核の傘」にある国のトップが核兵器禁止条約の意義を認めたのは岸田首相が初めてだ。実は外相時代に、核リスクを減らす核兵器の先制不使用政策を支持する講演もしている。今回の会議にも寺田稔首相補佐官(広島5区)を派遣して事態を打開しようとする意欲がうかがえる。
―22年3月には核兵器禁止条約の初めての締約国会議も控えます。
首相は米国の信頼関係が前提と言うが、逆に締約国会議へのオブザーバー参加で揺らぐものなのか、と言いたい。核兵器なき世界の実現を掲げるバイデン政権と目標は共有できているはず。一歩を踏み出すまたとない好機だ。
かわさき・あきら
ピースボートのスタッフを経て、ノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の運営に参加。現在は会長兼国際運営委員。ピースボート共同代表も務める。53歳。
保有数開示 「透明性」を
―今回の再検討会議の注目点は何ですか。
核兵器削減を巡る国際情勢は確実に厳しさを増している。中でも核大国である米国と中国の対立は深刻だ。まずは、立場の異なる国同士がいかに冷静に議論をするか、合意形成に向けたプロセスが重要になる。緊張関係を少しでも解消する契機としてほしい。
例えば今の状況で、米国が「核兵器を先に使いません」と「先制不使用」を一方的に宣言しても、中国が「つけ込むチャンスだ」と誤って受け取る可能性すらある。今は、お互いがきちんと対話をできる環境づくりに力を注ぐべきだ。
―具体的にはどういう議論に期待しますか。
岸田文雄首相が掲げる「透明性」は重要なキーワードの一つだろう。核兵器保有国が「これだけの数の核兵器を保有しています」という情報を自ら開示する。核兵器を削減していくためのベースを確立することにつながる。
―首相は前回会議の失敗を教訓に、合意文書の採択に向けた決意を示しています。
前回、交渉が決裂したからといって、あまりに高い核兵器削減の目標を求めるより、核保有国と非保有国が議論するNPTの重要性を再認識し、合意文書に明記することが大事だ。
合意文書で核兵器禁止条約の発効に触れるかどうかも核保有国と非保有国の対立の火だねになる恐れがあり、慎重に議論する必要があると考えている。
―政府は核軍縮に向けた取り組みを進める上で、バイデン米大統領との関係構築を最重視しています。
バイデン政権誕生は明るい材料ではあるが、米国に何か言えば事態が前進するというのは間違いだ。同時に中国に対しての姿勢も問われており、対話を呼び掛けていく必要がある。
―新型コロナウイルス禍で会議の出席者が制限される可能性があります。
各国の合意形成にはやはり、対面の議論を重ねる中で信頼を醸成していく過程が重要になる。それが制限されるとすれば非常に残念だ。少人数で臨む政府代表の責任は重みを増す。
あきやま・のぶまさ
広島市立大広島平和研究所講師、日本国際問題研究所主任研究員、在ウィーン国際機関日本政府代表部公使参事官などを経て一橋大大学院教授。核軍縮・不拡散を専門とする。54歳。
(2021年12月29日朝刊掲載)
ICAN 川崎哲会長
核廃絶の大原則再確認
―今回の再検討会議のポイントをどう見ていますか。
各国が核兵器の廃絶を目指すという大原則を改めて再確認できるかどうかが最大の課題だ。これまでの会議では2000年の「核兵器廃絶の明確な約束」をはじめ、究極的に核廃絶を目指すという合意が交わされている。
核兵器保有国はこうした合意などなかったかのような軍拡の動きを見せている。「環境が整わないと軍縮はできません」などという理屈は通らない。過去の合意に基づき、確実に核廃絶を目指す一致ができるかが問われている。
―前回に続いて合意文書が採択できなければ、NPTの存在意義が失われるとの指摘もあります。
今回も不調に終わった場合、「もう脱退する」という非保有国が出てきかねない。そもそもNPTは米国、ロシア、英国、フランス、中国だけに核保有を認め、削減義務も緩やかな不平等条約といえる。今回も保有国の姿勢が変わらなければ、信頼性は失われる。
―日本政府の役割は。
被爆地ヒロシマの訴えと重なる。「核兵器がひとたび使われると取り返しがつかない。もうやめよう」と胸を張って言うことだ。最終合意文書に「核の非人道性」を明記するよう各国を導いてほしい。
―「核兵器なき世界」を目指す岸田文雄首相に何を期待しますか。
米国の「核の傘」にある国のトップが核兵器禁止条約の意義を認めたのは岸田首相が初めてだ。実は外相時代に、核リスクを減らす核兵器の先制不使用政策を支持する講演もしている。今回の会議にも寺田稔首相補佐官(広島5区)を派遣して事態を打開しようとする意欲がうかがえる。
―22年3月には核兵器禁止条約の初めての締約国会議も控えます。
首相は米国の信頼関係が前提と言うが、逆に締約国会議へのオブザーバー参加で揺らぐものなのか、と言いたい。核兵器なき世界の実現を掲げるバイデン政権と目標は共有できているはず。一歩を踏み出すまたとない好機だ。
かわさき・あきら
ピースボートのスタッフを経て、ノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の運営に参加。現在は会長兼国際運営委員。ピースボート共同代表も務める。53歳。
一橋大 秋山信将教授
保有数開示 「透明性」を
―今回の再検討会議の注目点は何ですか。
核兵器削減を巡る国際情勢は確実に厳しさを増している。中でも核大国である米国と中国の対立は深刻だ。まずは、立場の異なる国同士がいかに冷静に議論をするか、合意形成に向けたプロセスが重要になる。緊張関係を少しでも解消する契機としてほしい。
例えば今の状況で、米国が「核兵器を先に使いません」と「先制不使用」を一方的に宣言しても、中国が「つけ込むチャンスだ」と誤って受け取る可能性すらある。今は、お互いがきちんと対話をできる環境づくりに力を注ぐべきだ。
―具体的にはどういう議論に期待しますか。
岸田文雄首相が掲げる「透明性」は重要なキーワードの一つだろう。核兵器保有国が「これだけの数の核兵器を保有しています」という情報を自ら開示する。核兵器を削減していくためのベースを確立することにつながる。
―首相は前回会議の失敗を教訓に、合意文書の採択に向けた決意を示しています。
前回、交渉が決裂したからといって、あまりに高い核兵器削減の目標を求めるより、核保有国と非保有国が議論するNPTの重要性を再認識し、合意文書に明記することが大事だ。
合意文書で核兵器禁止条約の発効に触れるかどうかも核保有国と非保有国の対立の火だねになる恐れがあり、慎重に議論する必要があると考えている。
―政府は核軍縮に向けた取り組みを進める上で、バイデン米大統領との関係構築を最重視しています。
バイデン政権誕生は明るい材料ではあるが、米国に何か言えば事態が前進するというのは間違いだ。同時に中国に対しての姿勢も問われており、対話を呼び掛けていく必要がある。
―新型コロナウイルス禍で会議の出席者が制限される可能性があります。
各国の合意形成にはやはり、対面の議論を重ねる中で信頼を醸成していく過程が重要になる。それが制限されるとすれば非常に残念だ。少人数で臨む政府代表の責任は重みを増す。
あきやま・のぶまさ
広島市立大広島平和研究所講師、日本国際問題研究所主任研究員、在ウィーン国際機関日本政府代表部公使参事官などを経て一橋大大学院教授。核軍縮・不拡散を専門とする。54歳。
(2021年12月29日朝刊掲載)