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「またか」被爆者ら落胆 証言ビデオ 日程不透明 NPT会議延期へ

 核軍縮の取り組みを検証する来年1月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が新型コロナウイルスの影響で再び延期される公算が大きくなったことを受け、広島の被爆者たちに29日、落胆や危機感が広がった。米中の対立などを背景に核軍縮の停滞が続く中、早期の開催を願う声も上がった。(小林可奈、樋口浩二)

 再検討会議はすでに3回延期されている。広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(79)は「またか、との思いだ」と落胆を隠さない。

 ウクライナ情勢などを巡る米ロの対立や米中の覇権争いが続く現状を踏まえ「核兵器保有国間の溝は深まる一方なのに、核兵器廃絶への議論はなかなか進まない」と懸念。前回2015年の再検討会議で保有国と非保有国の溝が埋まらず、最終文書の採択に至らなかった点に触れ「今回こそはと期待は大きい。直接顔を突き合わせて真剣に議論を交わす場を持ってほしい」と願った。

 もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(77)は「新型コロナの影響だけに延期もやむを得ないが、核軍縮を進める努力は止めてはならない」と強調。「日本政府は、米国をはじめとする保有国に核廃絶へ向けた働き掛けを強めてほしい」と求めた。

 日本被団協は今回の再検討会議で1月7日(日本時間)、事前にビデオ録画した役員の被爆証言を伝える予定だったが、この日程も不透明になった。田中熙巳代表委員(89)は「米中関係が悪化している。延期されるなら、その間に少しでも両国の緊張関係が改善してほしい」と望んだ。

 各国代表による一般討論演説を1月中にオンラインで開く案はあるが、実質的な協議は延期の方向だ。田中代表委員は「どんな日程でも、『二度と被爆者を生まないでほしい』との訴えを各国に届け、核兵器廃絶に貢献したい」と言葉をつないだ。

「早期の対面交渉を」 寺田補佐官 国連に意向伝達

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議が新型コロナウイルス禍で延期される公算が大きくなり、政府関係者は核軍縮の停滞に危機感を示す。岸田内閣で核軍縮・不拡散などを担当する寺田稔首相補佐官(広島5区)は29日、米中対立などを背景に核使用のリスクが高まる中、「できるだけ早く交渉を進め、核兵器保有国間の対立に歯止めをかけたい」と強調。早期開催の希望を国連側に伝えたことも明らかにした。

 寺田氏は、再検討会議の期間中に米ニューヨーク入りし、核軍縮に向けた各国との交渉や事前調整を担う予定だった。今週に入り、米ロ英仏中の核保有5大国を含む約40カ国に核軍縮への決意を示した書簡を発出。岸田文雄首相(広島1区)からも28日に激励を受けたばかりで「さあこれから、という時に非常に残念だ」と受け止めた。

 前回15年の再検討会議に続き合意文書を採択できなければNPT体制への信頼は揺らぐ。核軍縮推進派の非保有国はオンライン開催ではなく対面開催を追求しており、「合意形成には対面の議論を重ねる中で信頼を醸成する過程が重要」(軍縮筋)とされる。

 最終的な日程の決定は日本時間の31日に持ち越された。寺田氏は「米中対立や不安定な中東情勢などを考えれば一刻の猶予もない」と指摘。「新型コロナの状況を踏まえる必要はあるが、できるだけ早期に、たとえ少人数でも対面交渉に臨みたい意向を国連側に伝えた」と述べた。

 延期が決まった場合でも開催までに参加国との対話に注力して停滞打開を図る考えを示し、「被爆2世として被爆者や地元広島の思いを世界に届ける」と語った。(樋口浩二)

(2021年12月30日朝刊掲載)

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