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連載・特集

ヒロシマの記録2021 ▶1~6月 禁止条約 実効性が鍵

 核兵器のない世界へ、希望の光と不安の影が交錯した1年となった。

 1月22日、核兵器禁止条約が発効した。核兵器を全面的に違法化した史上初の国際条約。核兵器の開発や保有、使用や使用の威嚇のほか、禁止行為の支援すら禁じた。核兵器を非人道兵器と断じた国際規範が効力を持ったことで、核廃絶への機運は確実に高まった。

 ただ、条約に保有9カ国や日本など「核の傘」に依存する国は署名・批准をしていない。ドイツ新政権を樹立する3党が締約国会議へのオブザーバー参加を決めたが、米国務長官は今月1日、条約について「支持しない。核軍縮の目的を達成するために何ら役に立たないからだ」と断言した。

 今後は保有国をどう巻き込んでいくかが重要になる。核兵器廃棄の具体的な検証方法などの議論もこれからだ。来年3月にウィーンである第1回締約国会議が、条約の実効性を高められるかの最初の試金石となる。

 核廃絶の流れに逆行する流れも目立った。北朝鮮は核・ミサイル開発を進め、ミサイル発射を繰り返した。9月には日本列島をほぼ射程に収める新型巡航ミサイルの実験に成功したと発表した。

 英政府は3月、核弾頭保有数の上限を180発から260発に引き上げると表明。中国は8月に核弾頭を搭載可能で迎撃が難しいとされる「極超音速兵器」の発射実験をしたと報じられた。米国も対抗するように同兵器の実験を相次いで実施。「核なき世界」を目指す国際社会に背を向ける動きは止まらない。

 核軍縮の時計の針を進めるのか、後戻りさせるのか。被爆国として、日本政府の対応がこれまで以上に注目される。しかし、バイデン米政権は締約国会議にオブザーバー参加しないよう求め、岸田政権側は同調したとされる。核廃絶に向けてバイデン政権との信頼関係を重視する岸田文雄首相。被爆地広島を地盤とする初めての首相の姿勢が問われる。

 条約が発効した日、原爆ドーム(広島市中区)前で集会を開いた市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)」の森滝春子さん(82)は「日本など核に依存する国をどう切り崩すか。人類を滅ぼす核との熾烈(しれつ)な闘いに打ち勝つため、広島市民も立ち上がってほしい」と呼び掛けた。政府を動かすのは市民の声にほかならない。差した光を核兵器廃絶の確かな始まりにするため、平和を願い、一人一人が行動したい。(久保田剛)

1月

 1日 原爆ドーム(広島市中区)を残して壊滅した爆心直下の旧猿楽町で戦前に撮影された写真が計14枚見つかったと中国新聞が報道。原爆資料館(同)によると、猿楽町の写真は珍しい

 4日 イランは中部フォルドゥの核関連地下施設でウランの濃縮度を20%に引き上げた。核合意の制限を大幅に破る重大な違反で、核兵器級の90%の高濃縮ウラン製造に近づいた

 8日 核兵器のない世界の実現へ広島県が「ひろしま国際平和創造センター」(仮称)を4月に開設する方針を固めたことが判明。核兵器廃絶に向けた明確な国際的合意が2030年に国連で達成されるという目標を設け、核兵器廃絶の具体策を探る

 9日 北朝鮮の朝鮮中央通信が金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の党大会での演説詳細を伝えた。「対外政治活動を最大の主敵である米国を制圧、屈服させることに焦点を合わせる」と述べ、バイデン米新政権との対決姿勢を鮮明にし、核戦力の増強方針を表明

 13日 日本被団協など48団体でつくる「ヒバクシャ国際署名」の連絡会が、核兵器禁止条約への参加を各国に求める署名の最終集計が1370万2345筆になったと発表。米ニューヨークの国連本部にメールで目録を届けた

 15日 広島市の松井一実市長は、広島県が所有する最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」(同市南区)の利活用について、費用の一部を市が負担することもあり得るとの認識を表明▽トランプ米政権が20年11月、西部ネバダ州の核実験場で核爆発を伴わない臨界前核実験を行ったことが米ロスアラモス国立研究所の文書で明らかに。同政権下では19年2月以来で3回目

 19日 被爆者団体の鳥取県原爆被害者協議会(後藤智恵子会長、約100人)と原水爆禁止県協議会(県原水協)、県生協連合会は日本政府に核兵器禁止条約への署名・批准を求める署名活動をスタートすると発表

 20日 米大統領選で勝利した民主党のジョー・バイデン氏が第46代大統領に就任▽ブラジル被爆者平和協会(旧・在ブラジル原爆被爆者協会、サンパウロ)が昨年末で解散していたことが判明

 22日 核兵器禁止条約が発効。核兵器の開発や使用を全面禁止する国際条約が効力を持った▽オーストリアの首都ウィーンで開催される核兵器禁止条約の第1回締約国会議に、条約に署名していないスイスとスウェーデンの欧州2カ国がオブザーバーとして参加することが判明

 26日 米国とロシア両政府が、新戦略兵器削減条約(新START)の延長で合意

2月

 2日 核・平和問題に関する民間研究組織のピースデポ(横浜市)など20団体が、米国に「核の傘」を求める政策からの脱却に向けて「北東アジア非核兵器地帯」構想を真剣に検討するよう日本政府に要請▽広島県が、核兵器のない世界の実現に向けた各国や市民への新提案「ひろしまイニシアチブ」の骨子案を公表。核兵器廃絶へ遅くとも2030年には核保有国を含む明確な国際合意を達成するよう国際社会で働き掛けを強めるなどの4点が柱

 8日 広島市が新型コロナウイルス感染拡大を受け20年12月から臨時休館していた原爆資料館(中区)を約2カ月ぶりに開館

 12日 核兵器禁止条約の発効を受け、与野党の国会議員8人が日本政府の核軍縮策について意見を交わす討論会がオンラインで開催。核兵器廃絶日本NGO連絡会が開き、与野党双方から条約の締約国会議へのオブザーバー参加を前向きに検討するよう政府に求める意見が相次ぐ

 17日 広島県被団協(坪井直(すなお)理事長・当時)は、広島市議会が議員提案を目指す平和推進条例(仮称)の素案の修正を求める意見書を市議会に提出。市民の役割を市の平和推進施策に協力すると定めた5条と、平和記念式典を「厳粛の中で行う」とした6条2項について懸念を表明

 18日 米国による広島市への原爆投下後に降った「黒い雨」の被害を巡り、厚生労働省が国の援護対象区域を再検証する検討会を東京都内で開催。降雨区域を調べるための気象シミュレーションと土壌調査を、京都大、広島大、長崎大が連携して実施することが決定▽米国務省高官は、イラン核合意の当事国による会合が開かれれば米国も加わり、イランと対話する用意があると表明。バイデン政権が一方的に核合意を離脱したトランプ前政権の圧力政策から方針を転換

 21日 原爆で多くの生徒が犠牲になった広島県立第二高等女学校の級友と遺族に取材し、級友の足取りと最期を克明に追った「広島第二県女二年西組」の著者、関千枝子さんが死去。88歳

 22日 広島と長崎の二重被爆者が描いた「原爆の絵」があったと中国新聞が報道。作者は相川国義さん(17年に84歳で死去)で、65枚を02年に広島市の原爆資料館へ寄せていた

 26日 原爆資料館は本館で常設展示する原爆犠牲者の遺品の入れ替え作業を報道陣に公開。19年4月に本館がリニューアルオープンして以来、初めての大規模な入れ替え▽中国軍が内モンゴル自治区で大陸間弾道ミサイル(ICBM)用とみられる発射施設少なくとも16基の新設を進めている可能性が高いことが米専門家の調査で判明

3月

 1日 三次市の福岡誠志市長が市議会一般質問で核兵器禁止条約の締約国会議について「日本政府がオブザーバー参加することが、核兵器廃絶に向けた一歩となる」と述べた

 3日 日本政府がバイデン米政権に対し、北朝鮮の非核化に向けてトランプ前政権が取り組んだ米朝2国間交渉を継続するよう要請したことが判明

 10日 全国の被爆者団体が核兵器廃絶への願いを込めて47都道府県の県木などを植えた「被爆者の森」(広島市中区)で樹木が枯死したのを受けて、市が、北海道と石川、高知両県の木3本を植樹

 12日 庄原市議会が、恒久平和の実現に向けた市と市民の役割を明文化する市平和推進条例案を議員提案し、全会一致で原案通り可決。平和関連施策の根拠と位置付ける理念条例で広島県内の市町で初めて

 16日 英政府は、冷戦終結後で最も包括的な外交・安全保障政策の一体的見直しとなる「統合レビュー」を公表し、核弾頭保有数の上限を180発から260発に引き上げると表明。核軍縮方針を転換し核戦力を増強する中国や関係が悪化するロシアに対抗、安保環境の変化に対応する狙い

 17日 英政府による核弾頭保有数の上限引き上げ表明で、広島県原水協と県被団協(佐久間邦彦理事長)は、ジョンソン首相宛ての抗議文を在日英国大使館(東京)に送った▽広島の被爆者7団体が、日本政府に核兵器禁止条約の署名・批准を求める署名活動を始めると発表

 24日 韓国軍合同参謀本部関係者は、北朝鮮が中部の平安南道・温泉から巡航ミサイルと推定される2発を発射したと明らかにした

 26日 広島市教委は元中国新聞社カメラマンの松重美人さん(1913~2005年)が被爆当日の市内で市民の惨状を撮影した写真ネガフィルム5点を市重要有形文化財に指定。被爆の惨禍を伝える歴史資料としての価値を踏まえた。原爆被災写真のネガの市文化財指定は初めて▽北朝鮮の朝鮮中央通信が、同国の国防科学院が新たに開発した「新型戦術誘導弾(ミサイル)」の発射実験に成功したと伝えた。迎撃を困難にする低高度の変則的な軌道で飛行

4月

 1日 原爆資料館が新型コロナウイルス感染拡大の影響で続けていた常設展示の入場者数の制限を解除。資料館は2020年2月29日以降、臨時休館したり30分当たりの入場者の上限を設けたりし、制限をなくすのは1年1カ月ぶり

 5日 平和首長会議(会長・松井一実広島市長)が、新型コロナウイルスに収束の兆しが見えないとして8月に広島市で開く予定だった総会を1年間先送りすると決定

 7日 原爆資料館が20年度の入館者数が32万8590人だったと発表。入館者数が30万人台にとどまるのは、開館5年目の1959年度以来61年ぶり

 10日 被爆地広島から核兵器廃絶を訴え続け、全ての国に核兵器禁止条約への参加を呼び掛ける「ヒバクシャ国際署名」に力を注いだ被爆者岡田恵美子さんが84歳で死去

 11日 韓国の聯合ニュースは、複数の韓国政府消息筋の話として、北朝鮮が3千トン級の潜水艦の建造作業を終え、進水式の時期を探っていると米韓情報当局がみていると報じた。韓国軍や情報当局は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)3発を搭載可能と判断▽旧日本軍の遺構があり、原爆投下直後に多くの負傷者が運び込まれた広島市南区の似島に「似島平和資料館」が開館。戦争遺構に関する資料や被爆者の遺品など約100点を展示

 14日 広島県が核兵器を巡る36カ国の20年の取り組みを3分野で採点した「ひろしまレポート」を公表。核軍縮の分野では、日本を含む22カ国が前年と比べて評価を下げた

 16日 放射線影響研究所(放影研、広島市南区)が前身の原爆傷害調査委員会(ABCC)による戦後の新生児調査を再解析した結果を発表。親の被爆と子の先天性障害などで得られた結果は、過去3回と大きな違いはなかったとして「統計的に有意な関係は見られない」と判断

 28日 山口県原爆被爆者支援センターゆだ苑(山口市)が核兵器禁止条約の発効を受け、核兵器廃絶を訴える新たな取り組みを始めると明らかにした。条約発効の記念書籍の発行や被爆証言のデジタル化、記念集会の開催など5項目

 30日 世界遺産の原爆ドーム(広島市中区)で市が進めてきた5回目の保存工事が終了。天井の鋼材が焦げ茶色に塗り直され、被爆当時に近い姿となった

5月

 9日 冷戦下の1950~60年代、米軍統治下にあった沖縄に配備された米空軍の核兵器管理部隊による活動の詳細が米軍記録で判明。核爆弾の実弾を使った搬出入訓練が住民に近接した地域で57年前半だけでも少なくとも約150回確認されるなど、アジアでの核の実戦使用を想定した出撃基地として、沖縄が使われていた実態が明らかに

 13日 広島大原爆放射線医科学研究所(原医研)が、広島市南区の霞キャンパス内に新築した実験棟の看板除幕式を開き、報道陣に内部を初公開。国内有数の放射線実験施設や、原子力災害トレーニングセンターを完備▽広島平和文化センター(広島市中区)が、平和・軍縮教育に関する連携を拡充する覚書を長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA、長崎市)と交換

 18日 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(広島市中区)は、広島市出身の歌人、深川宗俊(本名前畠雅俊、1921~2008年)の遺影を登録したと発表。詩人の峠三吉らと反戦詩歌運動を展開

 19日 広島県は、広島市南区にある最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」のうち、所有する全3棟を耐震化する方針を正式に表明。2019年12月に打ち出した安全対策の原案「2棟解体、1棟の外観保存」から事実上の方針転換

 21日 バイデン米大統領が、ホワイトハウスで韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と初会談。両氏は北朝鮮情勢への「深い懸念」で一致

 25日 広島県が所有する全3棟を耐震化する方針を明らかにした被爆建物「旧陸軍被服支廠」で、湯崎英彦知事が残りの1棟も耐震化するよう所有者の国に求める方針を表明

 26日 平和推進条例の制定を目指している広島市議会の政策立案検討会議は、8月6日に市が営む平和記念式典を「厳粛の中で行う」と定めた条例素案の第6条2項を、修正しないと決定。被爆者団体や平和団体が「言論の規制につながる」などと削除や修正を求めていたが、検討会議の委員の意見が割れ、修正は全員合意が条件としている申し合わせに従った

6月

 6日 プーチン・ロシア大統領とバイデン米大統領の首脳会談に向け、ロシアが米国のミサイル防衛(MD)網を軍縮交渉の対象に含めるよう要求し、ロシアも大量に保有する戦術核兵器の協議に応じる用意があると米国に提案したことが判明

 7日 原爆投下後に放射性物質を含む「黒い雨」に国の援護対象区域外で遭い、健康被害を生じたとして広島県内の男女84人が被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の原告団と弁護団が、広島県議会と広島市議会に、原告たちを被爆者と認めて早期救済をすることを県市に働き掛けるよう要望

 11日 自民党の被爆者救済と核兵器廃絶推進議員連盟が、被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」で全4棟のうち国が所有する1棟について、保存を前提に利活用策を早急に検討することなど10項目を政府に申し入れ

 14日 サッカースタジアム建設予定地の中央公園広場(広島市中区)で進めている発掘調査で、旧陸軍の輸送部隊「中国軍管区輜重(しちょう)兵補充隊(輜重隊)」施設の被爆遺構が見つかったことが判明。広島城西側の広大な敷地に厩舎(きゅうしゃ)や兵舎などがあったが、米軍の原爆投下で壊滅。多くの兵士が被爆死した。市内の被爆遺構の発掘例としては過去最大級

 21日 新型コロナの感染拡大防止を目的に休館していた原爆資料館が、約1カ月半ぶりに開館▽イランの反米保守強硬派、ライシ次期大統領が、核合意再建に向けた米国との間接協議を継続する方針を表明

 24日 日米両政府が運営する放射線影響研究所(放影研、広島市南区)の移転問題で、放影研は6月中を目指すとしてきた移転先の決定を先送りしたと明らかにした。新たに候補地に加えた広島大霞キャンパス(南区)について、もう一つの候補地の市総合健康センター(中区)との比較に必要な調査が終わっていないのが理由▽サッカースタジアム建設予定地の中央公園広場で見つかった旧陸軍の輜重隊施設の被爆遺構を巡り、広島県原水禁が市民への現地説明会を早急に開くよう求める要望書を市に提出

 25日 広島市議会が本会議を開き、議員提案した平和推進基本条例案を賛成多数で可決。平和記念式典を「厳粛の中で行う」との表現は残した

(2021年12月31日朝刊掲載)

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