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連載・特集

ヒロシマの記録2021 ▶7~12月 核廃絶へ希望と不安

7月

 1日 被爆者健康手帳を持つ被爆者が今年3月末時点で12万7755人となり、初めて13万人を下回ったことが厚生労働省のまとめで判明。平均年齢は0・63歳上がり過去最高の83・94歳

 2日 尾道市御調町の被爆者たちでつくる御調町原爆被害者協議会が2020年9月に解散したと中国新聞が報道。1970年の結成時に約200人いた会員は、被爆者21人と遺族23人の計44人に減っていた

 7日 日本原水協が、1月に発効した核兵器禁止条約の署名・批准を急ぐよう政府に申し入れ。20年10月から全国で集めた58万7403筆の署名目録などを提示

 13日 広島市の松井一実市長は自身が会長を務める平和首長会議の新たな指針と行動計画を発表。目標として「核兵器のない世界」「安全で活力のある都市」の実現を掲げ、達成に向けて市民一人一人が平和について考え行動する「平和文化」の振興を位置付けた▽広島市のサッカースタジアム建設予定地で見つかった旧陸軍の輸送部隊輜重(しちょう)隊施設の被爆遺構で、松井市長は一部を切り取って保存活用する方向で検討する考えを表明

 14日 「黒い雨」に国の援護対象区域外で遭い、健康被害が生じたと訴える広島県内の男女84人が被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の控訴審判決で、広島高裁の西井和徒裁判長が、原告全員を被爆者と認定した一審広島地裁判決を支持、県や広島市、国側の控訴を棄却し、手帳交付を命じた

 15日 旧陸軍船舶司令部(暁部隊)の隊員として広島で入市被爆した東京都調布市の岩下運雄(かずお)さん(100)が被爆者健康手帳の交付を都に申し出た。被爆証言を収めた広島市編さんの「原爆戦災誌」に名前が誤って記され、長年諦めていたが、娘が証拠を集めて代理申請

 16日 東京五輪に合わせて来日中の国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が広島市中区の平和記念公園を訪問▽「黒い雨」を巡る訴訟で一審判決に続き原告84人全員を被爆者と認めた広島高裁判決を受け、広島市と広島県は厚生労働相に上告しないことを認めるよう申し入れ

 26日 「黒い雨」を巡る訴訟で菅義偉首相(当時)が原告84人全員を被爆者と認めた広島高裁判決を受け入れ、上告を断念することを決定▽広島、長崎両市の原爆資料館が収蔵する被爆者の遺品などを出張展示する「ヒロシマ・ナガサキ原爆・平和展」が東京都文京区の文京シビックセンターで始まる

 27日 「黒い雨」を巡る訴訟で、政府は広島高裁判決で勝訴した原告84人以外の被爆者認定についても「訴訟への参加・不参加にかかわらず認定し救済できるよう早急に対応を検討する」との首相談話を閣議決定

 30日 45年8月6日から翌年1月にかけて亡くなった被爆者61人の死亡診断書の控えが、広島市安佐南区の診療所「大中医院」に残されていたと中国新聞が報道。広島を壊滅させた「新型爆弾」の実態が不明な中、亡くなる患者の死因を「火傷」「中毒症」と記し、手探りで対応した医師の姿が浮かんだ

 31日 中国新聞社加盟の日本世論調査会が実施した「平和」に関する全国郵送世論調査で、核兵器禁止条約に日本が「参加するべきだ」と答えた人が71%に上ることが判明

8月

 1日 東京五輪・パラリンピック組織委員会は、国際オリンピック委員会(IOC)が五輪開催期間中の「広島原爆の日」の8月6日に、選手や大会関係者に黙とうを呼び掛けるなどの対応をしない方針だと明らかに。広島市や広島県被団協(坪井直(すなお)理事長・当時)が黙とうの呼び掛けを要請していた

 4日 現在の平和記念公園の原爆資料館本館付近に当たる「材木町94番地」に住み、原爆投下で犠牲となった加藤アサさん=当時(66)=の遺品の印鑑や焼け焦げた書類を遺族が同館に寄贈したと中国新聞が報道。爆心直下で壊滅した街の暮らしを伝える証し

 5日 広島県被団協(坪井直理事長・当時)は、広島市中区の広島平和会館で原爆死没者追悼慰霊式を営んだ。例年は100人以上が集うが、新型コロナウイルス感染防止で規模を縮小。役員たち9人が参列して犠牲者を悼み、核兵器廃絶に向けた不断の取り組みを誓った▽来年開催予定の核兵器禁止条約の締約国会議を前に、日本の核政策を考える討論会が広島市中区であり、与野党の党首を含む8党の国会議員全員が会議への参加に前向きな姿勢を示した▽日本最大の考古学会、日本考古学協会(東京)が、サッカースタジアム建設予定地の中央公園広場(広島市中区)で見つかった旧陸軍の輸送部隊、輜重(しちょう)隊の施設の遺構に関する要望書を市に提出。市民、学識経験者の意見を広く聞き、遺構の重要性と価値を十分に検討した上で適切な保存対策を取るよう要請▽中国新聞社は、世界遺産の原爆ドーム(広島市中区)を3D化したデジタルデータを作り専用サイトで公開

 6日 米軍による原爆投下から76年。広島市は平和記念式典を中区の平和記念公園で営み、松井一実市長は平和宣言で核兵器廃絶が「市民社会の総意」になるよう被爆の実態を広く発信し、核保有国の為政者たちに政策転換を迫ると強調。核兵器禁止条約への署名・批准を政府に求めた▽菅義偉首相は「黒い雨」を巡る訴訟の上告断念を受け、原告以外に黒い雨の被害を訴える人たちの救済について「個別に原告と同じ事情にあったかどうか、広島県や広島市としっかり連携をしながら対応する」と表明▽菅首相は平和記念式典のあいさつで、核兵器の非人道性や、核兵器のない世界の実現に向けた努力に言及する重要なくだりを読み飛ばした。終了後の会見で「あいさつで一部を読み飛ばし、おわび申し上げる」と陳謝▽原水禁国民会議と日本原水協がそれぞれ中心となって開く二つの原水爆禁止世界大会がいずれも広島での日程を終了。新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、ともに広島市内での現地行事とオンラインを併用。核兵器の廃絶に向け核兵器禁止条約を浸透させる決意を新たにした

 9日 長崎は米国による原爆投下から76年を迎え、長崎市松山町の平和公園で「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」が営まれた。田上富久市長は平和宣言で1月発効の核兵器禁止条約を「世界の共通ルールに」と訴え、政府に署名・批准を迫った。国の指定地域外で長崎原爆に遭った「被爆体験者」の救済も要請

 27日 北朝鮮が今年に入り、寧辺(ニョンビョン)の核施設で原子炉や再処理施設を再稼働させたとみられることが国際原子力機関(IAEA)がまとめた最新報告書で判明。核兵器の原料となるプルトニウムを抽出した可能性がある

 31日 広島市は被爆建物の広島大旧理学部1号館(中区)の敷地の一部から土壌汚染対策法の基準値の最大8・7倍となる鉛を検出したと発表。市は建物を囲うフェンスの外側の汚染土壌をアスファルトで覆った

9月

 2日 広島市が現在の平和記念公園一帯に位置し、米軍の原爆投下で壊滅した旧中島地区の被爆遺構を公開する展示施設の整備に着工。2022年3月の完成と公開を予定

 7日 広島市南区にある被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」で4棟のうち国所有の1棟について、国が初めて建物の強度を調査することが判明▽NPO法人原子力資料情報室や核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)など5団体と核政策に詳しい大学教授ら5人が、バイデン米政権が検討を進めている「核兵器の先制不使用」政策に反対しないよう求める公開書簡を自民党総裁の菅義偉首相ら与野党8党の党首に送った

 13日 朝鮮中央通信は、北朝鮮の国防科学院が11、12両日に新型長距離巡航ミサイルの発射実験に成功したと報じた。ミサイルは1500キロ飛行し、目標に命中したとした▽米軍制服組ナンバー2のハイテン統合参謀本部副議長は、米シンクタンクのイベントで中国軍が「前例のない核の近代化を進めている」と懸念を表明

 14日 日本、米国、韓国は、北朝鮮担当高官による協議を東京都内で開催。北朝鮮による新型長距離巡航ミサイル発射報道を受けた対応を協議し、対話と制裁を通じた北朝鮮非核化方針の堅持で一致

 15日 北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイル2発を発射。岸信夫防衛相は日本の排他的経済水域(EEZ)に落下したとの推定結果を明らかに。日本のEEZへの落下は19年10月以来

 21日 バイデン米大統領は、就任後初めてニューヨークの国連総会で一般討論演説に臨み、中国を念頭に「新冷戦」を望まない考えを強調

 27日 核兵器禁止条約を巡り日本被団協や広島・長崎の市民団体が参加する「核兵器廃絶日本NGO連絡会」は、外務省の担当者とオンラインで意見交換。連絡会側が禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を促したのに対し、外務省側はあらためて慎重な姿勢を示した

 28日 北朝鮮は内陸部から日本海側に向けて弾道ミサイルの可能性があるものを1発発射

 29日 自民党が総裁選の結果、岸田文雄氏(衆院広島1区)を第27代総裁に選出。広島市の松井一実市長は「ヒロシマの心を中心に据え、平和や外交の仕事をしていただける」と、平和行政や核兵器廃絶の推進に期待を高めた

 30日 米国とロシアは、核軍縮などについて話し合う「戦略的安定対話」をスイス・ジュネーブで開き、将来的な軍備管理の原則と、それが両国の戦略に与える影響を協議する二つの作業部会を設置することで合意

10月

 1日 朝鮮中央通信は、北朝鮮の国防科学院が新たに開発した対空ミサイルの発射実験を9月30日に行ったと報じた▽国連安全保障理事会は、北朝鮮がミサイル発射など挑発行為を繰り返していることを受けて非公開の緊急会合を開催。欧米の理事国から懸念の声が相次ぐ一方、常任理事国の中国とロシアは北朝鮮擁護の姿勢を崩さず、安保理として声明発表などの対応を取れず

 4日 自民党の岸田文雄総裁(衆院広島1区)が、衆参両院本会議の首相指名選挙で第100代首相に選出された。広島市からは戦前の加藤友三郎氏以来で被爆後は初めて。「被爆地広島の首相として核兵器のない世界に向けて全力を尽くす」と述べた

 5日 米エネルギー省核安全保障局(NNSA)は同日までに、2020年9月時点の核弾頭の貯蔵数が3750発だったと公表

 10日 世界規模の核技術・関連部品売買の秘密ネットワーク「核の闇市場」を構築し、核不拡散体制に深刻な脅威をもたらしたパキスタンのアブドルカディル・カーン博士が、肺疾患のため首都イスラマバードの病院で死去。85歳

 11日 「黒い雨」を巡る訴訟の広島高裁判決の確定や原告以外の黒い雨被害者も救済する政府方針を受け、訴訟に参加していない広島県内の少なくとも219人が、被爆者健康手帳の交付を一斉に申請

 16日 米軍の原爆投下から4年後の1949年、広島市で原爆ドーム周辺や広島駅前を撮影したカラー写真20枚が、米国ユタ州のユタ大図書館に残っていたと中国新聞が報道▽英紙フィナンシャル・タイムズ電子版が、中国が核弾頭を搭載可能な極超音速兵器の発射実験を8月に行ったと報じた

 20日 朝鮮中央通信は、北朝鮮の国防科学院が19日に潜水艦から新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験に成功したと報道

 21日 米国防総省・米軍は、音速の5倍以上の速さで飛行し迎撃困難とされる「極超音速兵器」の実験を相次ぎ実施し、20日の南部バージニア州では成功、21日の北部アラスカ州では失敗したと明らかにした

 24日 国内外に被爆体験を伝え、核兵器廃絶と被爆者援護の活動に尽力した日本被団協代表委員で広島県被団協理事長の坪井直(すなお)さんが、貧血による不整脈のため広島市内の病院で死去。96歳

 27日 国連総会(193カ国)の第1委員会(軍縮)は、日本が毎年提出している核兵器廃絶決議案を賛成多数で採択。採択は28年連続。「核の傘」を提供する米国への配慮から、核の保有や使用を全面禁止する1月発効の核兵器禁止条約への言及は避けた

 30日 バイデン米政権が検討を進めている「核兵器の先制不使用」政策について、日本や北大西洋条約機構(NATO)などの同盟国が採用に懸念を伝えていたことが判明

11月

 1日 坪井直(すなお)さんが理事長を務めてきた広島県被団協が本年度の総会を開き、理事長代行の箕牧(みまき)智之さん(79)=同県北広島町=を後任の理事長に決定

 3日 米国防総省は中国の軍事動向に関する年次報告書を発表し、中国が約10年後の2030年までに少なくとも千発の核弾頭を保有する意向を持っている公算が大きいと強調

 5日 日米韓3カ国が10月にワシントンで開いた岸田政権発足後初の高官協議で、北朝鮮との信頼醸成措置として休戦状態の朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言を望む韓国に対し、日本が「時期尚早」として難色を示したことが判明

 9日 日本の核兵器禁止条約参加への賛否を国会議員に調査している市民プロジェクト「議員ウォッチ」は、賛同する衆院議員の割合が改選前より約6ポイント増加し約33%になったと発表。締約国会議のオブザーバー参加への賛成は過半数に

 10日 市民団体「広島文学資料保全の会」(土屋時子代表)と広島市が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」(世界記憶遺産)登録を目指し、共同申請していた原爆文学関連資料が国内推薦の選定から漏れる

 11日 原爆投下で壊滅した広島市中心部の街並みを細密な鉛筆画に描き残した被爆者の森冨茂雄さんが、胃がんのため広島市安佐南区の病院で死去。92歳

 20日 平和記念公園(広島市中区)の原爆供養塔にある献花用の石製の鉢が、何者かによってセメントのようなもので埋められていたことが判明。鹿児島県鹿屋市の故木場昭春さんが63年に寄贈した鉢で市が修復を決定

 24日 12月のドイツ新政権樹立で合意した中道左派、社会民主党(SPD)や環境保護政党「緑の党」などの3党は、核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を政策合意書に盛り込んだ

 25日 広島市は平和記念公園にある原爆ドームを南側から見た景観を保護するため、新たに建てる建物の高さを制限すると発表。市の景観計画を改定し来年1月4日から規制。ドームの背景に建物が見えない景観をつくる

 26日 後藤茂之厚生労働相が「黒い雨」訴訟で勝訴した原告以外の被害者を対象にした被爆者認定制度について「22年度当初の運用開始を目指す」と述べた

 30日 広島市と広島県、広島商工会議所は23年に日本で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)の誘致を目指すと表明。核兵器保有国のリーダーが集まるサミットを被爆地で開き、核兵器廃絶に向けた機運を高めたい考え

12月

 3日 政府が国家安全保障と核軍縮・不拡散を担当する首相補佐官に寺田稔元総務副大臣(広島5区)を起用する人事を決定

 4日 1945年8月6日から同年末までに日本の市民や写真家たちが広島を撮った「原爆写真」について、本紙が調査結果を掲載した2007年以降、4人と1調査班が撮影していたことが原爆資料館(広島市中区)への寄贈資料から確認され、少なくとも計117枚を撮っていたと中国新聞が報道

 7日 原爆ドーム(広島市中区)の世界遺産登録から25年

 8日 日本軍の米・真珠湾への奇襲攻撃に端を発した太平洋戦争の開戦から80年

 9日 英紙フィナンシャル・タイムズ電子版は、米政権が策定中の新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を巡り、バイデン大統領が「核兵器の先制不使用」政策を採用しないと、米政府当局者が同盟国に伝えていたと報じた▽米ニューヨーク市議会は、米政府に対し核兵器の保有など一切を禁じる核兵器禁止条約への参加を求める決議案を賛成多数で採択。国際非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))による「都市アピール」の一環で、これまでに賛同を表明した500を超える都市の中で最大

 11日 核拡散防止条約(NPT)再検討会議について、日本被団協が被爆者の代表団の派遣を正式に断念したことが判明。新型コロナウイルス感染拡大に伴う判断

 13日 広島市の松井一実市長はNPT再検討会議に渡米しての参加を断念したと表明。会長を務める平和首長会議は再検討会議で核軍縮を建設的に議論し、具体的な取り組みを盛り込んだ最終文書をまとめるよう求める公開書簡を、全ての加盟国に送った

 20日 核兵器禁止条約に反対するバイデン米政権が来年3月の第1回締約国会議に、日本がオブザーバー参加しないよう外交ルートを通じて正式に要請していたことが判明。岸田政権側は同調し、参加に慎重姿勢

 23日 広島原爆の「黒い雨」の被害者救済を巡り、厚生労働省が22年度に運用を始める新たな被爆者認定の指針の改正案を広島県、広島市に提示。本人の証言や在学記録などから「黒い雨に遭った可能性が否定できない」場合は被爆者と認め、がんや白内障など11疾病の認定要件を維持した上で、白内障については手術歴がある人も対象とする内容

 24日 「黒い雨」に遭った人の被爆者認定を巡る厚生労働省の指針の改正案について広島県と広島市が受け入れを決定

 29日 NPT再検討会議がコロナ感染拡大で再び延期されることが判明。当初は昨春開催を予定し、延期は4回目

(2021年12月31日朝刊掲載)

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