池田元首相直筆 将来の夢「農業」 竹原・旧制忠海中時代の自己紹介文発見
22年1月6日
「所得倍増」の原点
将来の夢は「農業」―。竹原市出身の池田勇人元首相(1899~1965年)が、旧制忠海中(現忠海高)2年の時に記した自己紹介の直筆が見つかった。「所得倍増計画」を掲げ、戦後の経済成長を導いた宰相の原点がうかがえる。(桑島美帆)
わら半紙のつづりで、縦23・5センチ、横16センチ。表紙には毛筆で「大正二年度 新入舎生の交際廻(まわ)り 面影 第二号室」とある。「交際廻り」は、2年生以上が全寮制だった忠海中の入寮儀式。下級生が全15室を回り、先輩の詰問に応じた後、略歴や趣味を書かされたという。
13年4月の入寮当時、池田氏は13歳。勢いのある筆致で、出身地(豊田郡吉名村)、名前、年齢(数え年で十四)、両親の名前(池田吾一郎、池田ウメ)に続き、「未来ノ職業」欄に「農業」と鉛筆書きでしたためた。
池田氏は生前、「新入生には大きな試練であり、先輩には後輩訓練と威力発揮のチャンスなのだ」と回想している。筆跡を鑑定した広島大文書館の石田雅春准教授(45)は「公になっている直筆資料は非常に少ない。少年期の足跡を知る上で貴重」とみる。
池田氏が主人公の漫画「疾風の勇人」の作者大和田秀樹さん(52)は「官僚志望の印象が強く『農業』は意外。実家が造り酒屋なので、酒米を作ろうと思っていたのかも」と推測する。
爆心地の島病院(現島内科医院、広島市中区)を引き継ぐ島家が昨年、市内に保有していた蔵を整理した際に見つかった。島家につづりが渡った経緯は不明だが、院長だった故島薫さんの兄遜(ゆずる)さん(故人)が、つづりの裏表紙に名前がある寮の「第二号室長」と同級生だった。
池田氏は、自民党宏池会(岸田派)の初代会長。60年7月の首相就任後、「国民所得倍増計画」を閣議決定した。岸田文雄首相も昨年9月の自民党総裁選で格差是正などを柱とする「令和版所得倍増」を掲げたことから「昭和版」が再度注目された。
(2022年1月1日朝刊掲載)