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節目訴訟で国敗訴 原爆症救済今後は

■記者  岡田浩平

 全国の被爆者が原爆症認定の却下処分取り消しを求めた集団訴訟は、政府が訴訟解決を判断する節目と位置づけてきた東京高裁判決でも国側が敗訴した。しかし、原告が求める認定行政の見直しと「全員救済」への道筋は依然、不透明だ。

 認定基準は原告が却下された時の仕組みに比べて、昨年4月から大幅に緩和された。がんなど5つの病気は、爆心地から3.5キロ以内で直接被爆▽原爆投下から百時間以内に入市ーなどの条件を満たせば厚生労働省の被爆者医療分科会で「積極認定」している。

 これに肝機能と甲状腺機能の障害を加える再度の見直しは、必至の状況だ。甲状腺機能低下症は昨年5月の大阪高裁、肝機能障害は今月の大阪高裁が原爆症と認め、ともに判決が確定。28日の東京高裁判決も「原爆放射線と関連性があるとして審査に当たるべきだ」と明示した。2つの病気について司法判断は確立したと言える。

 2つの病気の扱いに関し、昨年10月から見直しを検討してきた医療分科会は、東京高裁判決を踏まえて判断することになっていた。次回の会議は6月22日の予定だが、全国原告団の山本英典団長(76)は「見直しの方向性は政治判断できるはずだ」と言う。

 原告側は、積極認定の条件から外れたがんや対象外の病気も個別の総合認定で柔軟に認定するよう求める。

 東京高裁は、昨年3月以前の古い基準を「適格性を欠く」と断じた理由として、国が残留放射線や内部被曝(ひばく)を過小評価していた点に触れた。そして爆心地から5キロ離れて被爆した原告のがんも、救護などの実態を踏まえ原爆症と認めた。

 厚労省は、昨年来の各高裁判決の考え方を総合認定に反映していると釈明するが、司法判断と比べれば認定範囲は狭く「機械的な線引きで切り捨てている」との批判を解消できていない。5つの病気以外で認定したのは甲状腺機能低下症だけだ。

 全国弁護団の宮原哲朗事務局長は「認定行政の実態と司法の隔たりは大きい。基準を変え、運用を判決の水準まで高める必要がある」と主張する。  「全員救済」を掲げる原告は、地裁で勝訴しながら国に認定されていない原告約60人の速やかな認定を求める。宮原事務局長は「判決が出た原告は厚労省の認定審査以上に厳密な裁判で認められている」と強調する。

 しかし厚労省は「一審の判断根拠はさまざま。一審判決だけでいいとなれば国が同種の訴訟を高裁で争うのが難しくなる」と後ろ向きだ。敗訴原告の救済のため原告団が一括支払いの方法で想定する「解決金」についても、厚労省は「筋違い」と否定する。

 国側の18連敗となった東京高裁判決を受け、麻生太郎首相は「被爆者救済の観点で対応したい」と述べたが、原告と厚労省との溝は深い。それだけに今後の政治判断は、官から政治へどこまで主導権を移せるかの試金石となる。

<訴訟解決に向けた原告側の要求>

【認定行政の見直し】
①肝機能障害と甲状腺機能障害を積極認定に入れる
②がんを幅広く認定する
③総合認定はこれまでの判決に従い「疑わしきは被爆者の利益に」の立場で臨む

【原告の救済】
①裁判所で勝訴した原告の即時認定
②判決が出ていないか敗訴した原告には被爆者救済の立場で対応

(2009年5月30日朝刊掲載)

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