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はだしのゲン閲覧制限問題 日図協 西河内委員長が講演

 全国に波紋を広げた松江市教委による漫画「はだしのゲン」の閲覧制限がはらむ問題点は何か。16日、同市で講演した日本図書館協会(日図協)図書館の自由委員会の西河内靖泰(にしごうち・やすひろ)委員長(59)は、市教委の制限要請が図書館の自由を侵す介入に当たると指摘。さらに「表現を規制する動きに命がけで抵抗するのが図書館の役割」と、図書館のあるべき姿を提起した。(樋口浩二)

「教える側の都合」に警鐘

 延べ22年間公立図書館で勤務する西河内委員長。最も重視するのは日図協が1954年に採択し、79年に改定した「図書館の自由に関する宣言」だ。

「宣言」が前提

 宣言は資料収集・提供の自由を図書館に保障し、検閲への反対を掲げる。最高裁判決でも同様の見解が示されており、西河内委員長は「権力の介入に左右されることなく情報提供するのが図書館の役割」と強調。同時に「情報の受け手(借り手)にも自由がないといけない」とし、イデオロギーにかかわらず「図書館が情報をコントロールするのはとんでもない」と指摘した。図書館が国策の下で貸し出し禁止など自主規制を進めた第2次世界大戦への反省を踏まえ、「自由宣言」が成立した背景も紹介した。

 松江市教委が制限要請のよりどころとしたのが学校図書館と一般の公立図書館との性質の違いだった。発達段階にある子どもが対象となる学校図書館では「教育的配慮が必要なケースもある」との解釈だ。市教委の清水伸夫教育長は、要請撤回後もこの姿勢を貫く。

 しかし、西河内委員長は「学校図書館も自由宣言に従うべきだ」と言う。年齢による表現の規制や制限を否定した「自由宣言」がその論拠という。

 西河内委員長は教師たち大人から発せられる教育的配慮への懸念も表明した。例として、小学校教師が原爆を投下した米国を痛烈に批判した際、クラスにいた児童の一方の親が米国人であるのに全く気配りをせず、ショックを与えた実話を紹介。無意識に子どもを傷つけることがある以上、意図的な「配慮」は難しいとした。「子ども一人一人を大切にするとはどういうことか。教える側の都合に基づく配慮はごまかしにもなる」と警鐘を鳴らした。

例外は限定的

 例外的に規制の対象となりうる図書はあるのか。西河内委員長は「人権侵害や差別に直結するもの」を挙げる。例えば被差別部落の地区名が書かれた書籍は「図書館に置くことはあり得ない」。どのような図書を制限するかは、「非常に限定的であるべきだ」とくぎを刺す。

 「今回の問題を糾弾するわけではない。今後図書館がどうあるかが重要」と、西河内委員長。図書館には、常勤職員の配置など人員の充実と外部に開かれた選書体制が不可欠と指摘した上で、「『無料貸本屋』になってはならない。資料収集と保存には徹底した人材と費用の投入が必要」と訴えた。

にしごうち・やすひろ
 1953年大阪市住之江区生まれ。大分県立津久見高、立正大文学部卒。76年東京都荒川区職員。88年に同区日暮里図書館配属となって以来、区教委などに勤めた3年間を除き全国の図書館で勤務する。2012年7月から現職の滋賀県多賀町立図書館館長。著書に「知をひらく『図書館の自由』を求めて」(青灯社)。

(2013年9月21日朝刊掲載)

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