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社説・コラム

天風録 『今ごろ「核戦争に勝者なし」とは』

 「キューバ危機」再来の恐れがある―。ウクライナ情勢を巡り昨年末、ロシア高官が語った。米国とソ連の対立で世界が核戦争の瀬戸際に立った60年前の危機。人類史にとっての重大事を持ち出す発言に、驚いた▲ソ連がキューバからミサイルを撤去し、危機は回避された。だが核のボタンは押される寸前だった。米軍艦に対し、ソ連潜水艦が核魚雷の準備を進めたという。もし発射されていたら…。私たちはいないかもしれない▲核戦争は人類を滅亡させる―。危機から世界は学んだ。いわば当たり前のことを、核保有国が今になって言いだした。米ロや中国、英国、フランスの5カ国が、核戦争の回避こそ最重要責務だとうたう共同声明を発表した▲核兵器は防衛、侵略の抑止、戦争防止を目的にするほか、核拡散を阻止し、核軍縮交渉も続けるという。自画自賛しているが、保有国のいつもの論理。非保有国が採択した核兵器禁止条約をけん制するのが狙いだろう▲声明は「核戦争に勝者なし。決して戦ってはならない」とも強調する。今ごろ気付いたのならば、危機感が薄い。もっと内容のある声明を出せないのか。被爆地の訴えを聞き、核兵器を手放すことだ。

(2022年1月5日朝刊掲載)

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