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「岩国基地から」拡大一気 集団感染1週間 米軍の未検査響く

 米軍岩国基地(岩国市)で過去最多となる新型コロナウイルスの80人の集団感染が確認されて4日で1週間となった。昨年12月以降だけで米軍関係の感染は243人に上る。別に岩国市内で160人が感染し、山口県は「基地から広がった可能性が高い」とみる。急拡大の背景には、変異株「オミクロン株」が世界で広がる中、米軍関係者が未検査のまま米本土から基地に入り、マスク着用も未徹底だったことがある。(永山啓一)

 市は仕事始めの4日、急きょ対策会議を開き、9日に予定する成人式の延期を決めた。福田良彦市長は「水際対策に抜け道があった。日米政府間で対策を確認していれば、今回の事案になっていなかった」としつつ、目の前の対応に全力を尽くす考えを強調した。

 岩国基地が1日当たり最多の集団感染を発表したのは12月29日。同日、県は基地従業員や海上自衛隊員を含む市民7人の感染を発表した。国立感染症研究所(東京)が遺伝情報を解析した結果、基地従業員の感染をきっかけに市内の飲食店などで広がった可能性が高いという。

 日米地位協定9条の規定で在日米軍の構成員は旅券やビザに関する日本の法令が適用されず、岩国基地にも米本土から軍用機で直接、乗り入れている。日本政府はオミクロン株が国内に入らないよう外国人の新規入国を原則禁止しているが、米軍関係者には適用されていない。

 出入国時の水際対策について米側は従来「日本の対策と整合的な措置を取る」としていた。しかし、9月以降はワクチン接種の進展を理由に、出国時にPCR検査をしていなかった。さらに岩国基地はワクチン接種者を対象にマスクの着用義務を大幅に緩和していた。

 日本政府の要請で出国時のPCR検査は再開され、岩国基地は全ての施設でマスクの着用を義務化した。市民に感染が広がったことに基地報道部は「誰かをとがめ、責任を問うても何の利益もない。良い状況は日米のコミュニティーが協力して、対処することからもたらされる」としている。

 基地は米軍関係者の感染経路や行動歴のほか、オミクロン株の検査の有無も公表していない。村岡嗣政知事と福田市長は4日、基地のフレデリック・ルイス司令官に感染者の情報提供やオミクロン株を特定する遺伝情報の解析を迅速にするよう文書で要請した。

 基地の感染対策の強化を求める要請書を同日、県に提出した市民団体「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク」の久米慶典顧問は「市民と米軍関係者で感染対策への意識にギャップがある。基地の対応が後手に回ったのは明らかだ」と批判した。

岩国基地47人感染 外泊・一部外出活動禁止

 米軍岩国基地は4日、新たに基地関係者47人が新型コロナウイルスに感染したと発表した。変異株「オミクロン株」かどうかは明らかにしていない。基地内の感染確認は計489人で、昨年12月以降だけで243人と急速に広がっている。基地は同日、外泊の禁止などを盛り込んだ13日までの新たな行動制限を公表した。

 基地報道部によると、12月29日以降、基地の外での活動を午後10時までとしてきた。4日は規制を強め、軍人、軍属や家族を対象に、これまで認めていたホテルへの宿泊を禁じた。生活に欠かせないサービスを除き、基地外に出ることも禁止した。

 医療機関や動物病院の受診、郵便局、スーパーでの買い物、食事のテークアウトは、広島市内を含めて認めている。(永山啓一)

(2022年1月5日朝刊掲載)

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