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江波山気象館 愛され30年

 広島市江波山気象館(中区)が今年、開館30周年を迎える。1992年6月、国内初の気象をテーマとした博物館としてオープン。豪雨や雲が発生する仕組みを体験しながら学べる装置を備え、市内外の家族連れたちに親しまれてきた。原爆投下によって被害を受けた「被爆建物」としての一面も持ち、貴重な建築物としても知られる。館の魅力やこれまでの歩みなどを紹介する。(浜村満大、山田祐)

充実の体験

五感で学び 家族で楽しむ

 周囲から水滴を含んだ空気が吹き出し、白い「煙」が瞬く間に子どもたちを覆うと歓声が上がった。全国的にも珍しいという、人工的につくった雲の中に入る体験ができる装置「タイフーンボックス」。台風の目も観察できる、人気の体験の一つだ。

 常設の気象・科学の体験コーナーではこのほか、落雷の仕組みが学べたり、豪雨や暴風雨を画面上で疑似体験できたりする。地震による液状化や津波を体感できる装置なども所蔵し、イベントで活用している。

 週末のサイエンスショーは家族連れから人気が高く、2021年12月に家族で訪れた安佐南区の川内小3年岩藤啓人さん(8)は「気象を実際に見たり、体験できたりするのが楽しい」と声を弾ませていた。

 1992年、気象記念日の6月1日に開館。独自に気温や湿度、風速を観測し、館内やホームページで紹介する。原爆投下当日の天気図など被爆関連資料も展示する。年間5万~6万人が訪れ、累計の入館者数は2021年度150万人を超えた。

 気象や防災に関する知識を普及、啓発してきた功績が認められ、17年に国土交通大臣表彰を受けた。

凝った造り

近代の趣残す被爆建物

 江波山気象館の建物は1934年に県立広島測候所(現在の広島地方気象台)として建設された貴重な近代建築の一つだ。丸みを帯びた外観は柔らかい印象で、玄関のひさしを支える逆円すいを重ねたデザインの1本の柱や、屋上の塔の壁から飛び出る形状の階段など、鉄筋コンクリート造りならではの試みがふんだんに盛り込まれている。

 原爆が投下された45年8月6日は、爆心地から約3・7キロで爆風に耐えて倒壊は免れた。その後、被爆建物に登録された。ガラス片が突き刺さったままの壁や曲がった窓枠が現存し、当時の惨状を今に伝える。同気象台が中区の合同庁舎へ移転した後の90年、広島市へ移管された。

 92年に気象館として開館し、2000年に市重要有形文化財に指定された。撮影スポットとして、結婚式や成人式の前撮りに訪れる若者もいるという。

 歴史的な建物に詳しい市民団体「アーキウォーク広島」の高田真代表は「被爆建物でありながら、随所に当時のデザインが現存するのは極めて貴重で、来客を想定しない気象台とは思えない凝った造り。広島に残る近代建築の中で屈指の逸品だ」と話している。

大切なこと 伝え続ける

江波山気象館の堀田稔館長の話

 サイエンスショーやワークショップを通じて、来館者と職員が触れ合いながら気象や科学に関する知識を深められるのが魅力の一つ。被爆建物であり、平和の大切さも感じてほしい。

 近年は広島を含めて全国で自然災害が多発し、南海トラフ巨大地震も懸念される中で防災への関心が高まっている。引き続き防災に重点を置き、災害を引き起こす気象の仕組みや避難の大切さなどを訴えていくことが責務だと感じている。

 交通の便がいい場所にあるわけではない。新型コロナウイルス禍では、動画投稿サイト「ユーチューブ」や写真共有アプリ「インスタグラム」を使って気象や館内の見どころを解説した。今後も、時代に合わせた情報発信に力を注ぎたい。

 今年は30周年にふさわしい企画を展開しようと構想を練っている。期待してほしい。

(2022年1月7日朝刊掲載)

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