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地位協定 水際対策に「穴」 オミクロン株 米軍基地「震源地」濃厚

 広島、山口、沖縄3県の新型コロナウイルス「オミクロン株」感染拡大の「震源地」とみられる在日米軍基地。軍関係者の検疫は日米地位協定によって米軍任せで、政府の水際対策に「穴」が生じた。かねて不平等と指摘される協定の見直しを沖縄県知事や野党は求めるが、政府は7日に改めて拒否した。専門家は次善の策として基地外で軍関係者に適用する法整備の必要性を説く。問題点を整理した。(中川雅晴、境信重)

 3県にまん延防止等重点措置を適用する政府方針の国会報告があった7日の衆院議院運営委員会。野党議員が「日米地位協定を見直す気はないか」と山際大志郎経済再生担当相に迫った。6日に岸田文雄首相(広島1区)が見直しを「考えていない」と述べたのを受け、改めて政府の姿勢をただした。

 「日米同盟の抑止力が必要というのが政府判断だ。それを毀損(きそん)するようなことはしない」。山際氏は強調した。

 1960年に締結された日米地位協定の特徴は米側に大きな権限が与えられ、日本の主権が事実上及ばないことだ。米軍絡みの事件や事故でも日本側の捜査を阻むケースがあった。

 今回浮かび上がったのは米軍人や軍属、その家族の出入国手続きなどを定めた地位協定9条だ。「外国人の登録および管理に関する日本国の法令の適用から除外される」と記す。

 この「管理」に含まれる検疫に関し、協定の運用を議論する日米合同委員会は96年、取り決めを結んだ。米軍関係者が軍の飛行機や船で在日米軍基地に直接入る場合は米軍が検疫に責任を持つと規定。基地は日本の水際対策の対象外となった。

 コロナ禍を受け日米両政府は2020年7月、米軍が「日本政府と整合的な形」の水際対策を行うとの共同文書を発表した。だが米側は昨年9月から米国内のワクチン接種が進んだことなどを理由に米国出国時のPCR検査を免除した。日本入国時の行動制限期間も政府方針の「14日間」より短い「10日間」で運用。日本の水際対策とはほど遠く、報告もなかった。

 政府が「穴」の実態に気付き、林芳正外相(山口3区)がラップ在日米軍司令官に「遺憾の意」を伝えたのは昨年12月22日。米軍は12月下旬以降、米国からの出国時検査を行い、年明けには基地内でマスク着用を義務付けるよう通知したが、時すでに遅し。年末年始に感染は広がっていた。

岩国基地でも変異株検査へ 政府、米側と調整

 磯崎仁彦官房副長官は7日の記者会見で、米軍岩国基地での新型コロナウイルス感染急拡大を踏まえ、変異株の検出に使うPCR検査の実施に向けて日米両国が最終調整中だと明らかにした。「デルタ株」について陰性と判明した場合に、「オミクロン株」かどうかを特定するゲノム解析を実施する流れを見込んでいる。

 沖縄県の米軍キャンプ・ハンセンでの検査と同様の対応。基地のある岩国市では感染者が急増している。

沖縄国際大 前泊博盛教授に聞く

軍関係者に適用の法を

 日米安全保障が専門で元琉球新報論説委員長の前泊博盛沖縄国際大教授=写真=に、日米地位協定の問題点を聞いた。

 日米地位協定によって日本政府は米軍関係者に検疫による入国時のチェックに関与できない。フェンス1枚を隔ててコロナ感染大国の米国がすぐそこにある、ということを政府はあまり意識していない。米軍に全く無防備で、対応が甘い。

 領土、領海、領空内で自国の法律を適用するのは当たり前だ。米国のわがままを放置する「放置国家」ではなく、法を重んじる「法治国家」であらねばならない。岸田政権は「郷に入っては郷に従え」と言うべきだ。

 地位協定の問題点が今回改めて指摘されているが、日本の政治家は日米同盟に過度に依存し、改定に動こうとしていない。忘れてならないのは、米国と安保体制を続けているのは日本国民を守るのが目的だということだ。それが、私たちの命や暮らしを脅かしているのは本末転倒ではないか。

 米軍基地のフェンスの外は日本だ。基地から出てくる際にわが国の検疫ルールを米軍関係者にしっかり適用できるよう法律を定めるべきだ。PCR検査の陰性証明を提出させることもできる。(談)

(2022年1月8日朝刊掲載)

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