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社説・コラム

天風録 『揺れる非核の国、カザフ』

 閃光(せんこう)が走って地平線に黒い塊が見え、それは赤い泥の色に変わった―。きのこ雲だった。旧ソ連で最初の水爆実験を目撃した人が、30年ほど前に本紙「世界のヒバクシャ」取材班に語っている▲現場はカザフスタンのセミパラチンスク市。人々は核実験場のために土地を追われ「死の灰」の風下にさらされた。取材当時も「話していいのか」といぶかる人を「グラスノスチ(情報公開)だよ」と励ます人がいた。超大国も末期の頃、ようやく声を上げる自由がもたらされる▲そのカザフが独立以来、例のない反体制デモに揺れている。燃料高騰に端を発した抗議だが、現政権は治安当局に発砲を認め、死者も出た▲この30年、前大統領のナザルバエフ氏が実権を握り、経済成長は軌道に乗った。「国父」とたたえられ、遷都した首都は彼のファーストネームに改名される。自国のヒバクシャの痛苦も知る人なのだろうが、長きに及ぶ支配に民の不満も募ったのか▲「いかなる国の安全保障も他国の犠牲の上にあってはならない」。カザフの代表は国連総会でこう述べて、核兵器禁止条約への支持を訴えた。非核の理念を語る国に、民に銃口を向ける非道はあってはならない。

(2022年1月9日朝刊掲載)

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