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社説・コラム

社説 核戦争回避 5大国声明 本気なら なぜ行動せぬ

 核兵器を持つ米国、中国、ロシア、英国、フランスの五大国の首脳が、核戦争回避を「最重要の責務」とする共同声明を発表した。

 「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならないことを確認する」とも述べている。本気でそう考えるなら、超音速兵器の開発をはじめ核軍備の増強をすぐにやめるべきである。

 この5カ国は、核拡散防止条約(NPT)で核兵器の保有が認められている。そうした特権の見返りとして、条約の第6条によって核軍縮交渉を誠実に行うよう義務付けられている。

 にもかかわらず、近年は核軍縮に背を向け、逆行する動きを強めてきた。「使える」核と称する小型核の開発などである。

 「すてきな」声明を書いているが、現実には全く逆のことをしている―。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))のベアトリス・フィン事務局長が批判する通りである。

 こうした不誠実な態度に、核兵器を持たない国々や、ICANなどの国際NGO、市民団体が強く反発。NPTの枠組みだけでは、核軍縮は進まないとみて、核兵器を全面的に禁じる核兵器禁止条約づくりを進め、昨年1月、発効にこぎ着けた。

 今年3月には、初めての締約国会議が開催される予定だ。ドイツとノルウェーは、オブザーバー参加する方針だ。ともに、米国や欧州各国などでつくる北大西洋条約機構(NATO)の加盟国である。日本と同様、米国の「核の傘」の下にいる国だけに、その決断は重い。

 こうした機運の高まりに、保有国はいら立ちを感じているに違いない。日頃は米国と対立するロシアや中国を交えて、今回のような声明を初めてまとめたのは、強い焦りの現れだろう。

 5カ国は、この声明を年初に開幕予定だったNPT再検討会議に向けて発表した。核軍縮に取り組む姿勢を見せることで批判をかわそうとしたようだ。

 声明は、2国間、多国間の外交的取り組みを引き続き追求する意向も示している。しかし裏付けとなる具体的行動はない。例えば中国。米ロ間の軍縮交渉への参加を打診されても、そっぽを向いたままだ。「お題目を唱えただけ」と軍縮の専門家に批判されても仕方あるまい。

 声明を単なる空手形で終わらせてはならない。そのため、法的拘束力のある国際的な約束にまで格上げさせた上で、言ったことは実行するよう保有国に迫る必要がある。敵視し続けている禁止条約に保有国を近づけることにもつながるはずだ。核兵器廃絶への道を切り開き、人類の自滅を防ぐことにもなろう。

 核兵器が存在する限り、偶発的な事故や、人為ミスによる誤発射、テロリスト集団に奪われる危険が常につきまとう。声明を受け、国連のグテレス事務総長は、こう指摘している。核を巡る全てのリスクを排除する唯一の方法は、全ての核兵器を廃絶することだ、と。

 その点でも、禁止条約の重要さが分かる。NPTの掲げる核軍縮にはとどまらず、廃絶を目指す唯一の条約だからだ。

 原爆の惨禍を知る日本の出番ではないか。禁止条約の枠組みに保有国を巻き込んでいく…。「核なき世界」をライフワークと位置付ける岸田文雄首相にこそ求められる役割である。

(2022年1月11日朝刊掲載)

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