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社説・コラム

社説 北朝鮮ミサイル発射 国連安保理 機能させよ

 年明け早々、北朝鮮が弾道ミサイルを日本海に向けて相次いで発射した。2回目の発射は1回目からわずか6日後だった。東アジアの平和と安定を脅かす暴挙である。国連安全保障理事会の決議をないがしろにしていて、断じて容認できない。

 2回目の発射は弾道ミサイルと推定されるが、最高速度マッハ10(音速の10倍)前後に達しており、700キロ前後飛行したという。落下地点は日本の排他的経済水域(EEZ)の外側だが、変則的な飛行により飛距離を伸ばした可能性もある。

 北朝鮮は1回目のミサイルを「極超音速型」と主張したものの、韓国軍などの「評価」は低かった。技術力を誇示するために、立て続けに発射を試みたのだろうが、国際情勢に無用な緊張をもたらすだけである。

 相次ぐミサイル発射は、米国や中国、ロシアといった大国の間の対立が深まっていることに呼応しているとみていい。折しも米や北大西洋条約機構(NATO)は、ウクライナに対して軍事圧力を強めるロシアと外交の上でせめぎあっている。

 中国は米国との間で台湾を巡って対立を深めている一方で、北京冬季五輪を来月に控え、強権で自国内の感染を封じ込める「ゼロコロナ」政策に注力せざるを得ない。さらに韓国は日本との関係が好転しないまま、3月には大統領選を迎える。

 2回目の発射は、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記自らが現場で視察したという。重要な案件である証しである。揺れ動く国際情勢のいわば死角に入る形で、生き残りを懸けてミサイル開発に注力しているともいえよう。

 それだけに、国連安全保障理事会が北朝鮮のミサイル発射を巡って、十分機能していないことは由々しき問題である。

 先日の緊急会合では米英仏、アルバニア、アイルランド、日本が共同声明を出し、北朝鮮を非難した。複数の安保理決議に対する明確な違反を指摘し、禁止された大量破壊兵器と弾道ミサイル計画を放棄するよう求めた上で、加盟国に対し安保理決議に基づく北朝鮮への制裁義務を履行するよう要請した。

 しかし、北朝鮮国民が困窮しているとして、制裁緩和をあらためて求める中国やロシアとの足並みはそろわず、安保理としての声明は今回も発表できないままだ。北朝鮮がミサイル発射を繰り返した昨秋以降、会合を繰り返しながら結論が出せないことは金氏に付け入る隙を与えている。安保理は早急に一致した声明を出すべきである。

 米財務省と国務省はきのう、北朝鮮で兵器開発を担当する国防科学院傘下組織の関係者ら計7人を米独自の制裁対象に加えた。ミサイル開発などのため物資調達に関与したとするが、制裁の効力は未知数だろう。

 一方、日本国内では、ミサイル発射に対し岸田政権の閣僚から「敵基地攻撃能力の保有も含め、あらゆる選択肢を検討し、防衛力の抜本的な強化に取り組む」という発言が出ている。

 先日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、敵基地攻撃能力の保有に前向きな考えを米に伝えたことが背景にあるのだろうが、筋違いではないか。最優先で取り組むべきは、日韓関係の正常化に基づく東アジアの平和と安定の維持であり、外交努力にほかならない。

(2022年1月14日朝刊掲載)

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