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ゲン閲覧制限撤回1ヵ月 選定基準 塩見昇・日図協前理事長に聞く

学びの可能性摘む「抑制」

 松江市教委が、市内の小中学校に要請した漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を撤回して1カ月。市内各校では図書選定の基準作りが進み始めた。学校図書館の在り方に詳しい日本図書館協会前理事長の塩見昇氏(76)は「見せないための『表現狩り』にならぬよう、図書の長所を認め、利用を促す基準とする精神が必要」と指摘した。(樋口浩二)

 ―望ましい図書の選定基準とは。
 「こんな表現は見せたくない」との「抑制型」の基準では検閲の発想と同じ。子どもの知る自由に応えられない。賛否がある図書でも子どもには教材となる。一部の表現に過剰反応せず作品全体を重視して提供する「拡張型」の基準を目指すべきだ。

 ―学校図書館では「教育的配慮」が必要との意見もあります。
 全く配慮が必要ないとは思わない。だが学校図書館は「大人による指導」という学校教育の原理から子どもが自由になれる貴重な場所だ。自由な読書を制限すれば普段の授業を超えた学びの可能性を摘んでしまう。三、四十人の学級では一人一人の主体的な学びを教師が支えるのは難しい。授業でわいた疑問のほか、教師には知られたくないがどうしても気になる―。例えば性や宗教、イデオロギーについて抱える悩みを解消するため図書館に行く子どももいる。学校図書館の存在意義はそうした知的好奇心に応えることにある。

 ―「有害図書」とされる図書の取り扱いは。
 生徒の要望があれば最大限応えることが大事だ。自殺の手法を掲載して批判された『完全自殺マニュアル』を希望通りに購入し、命の尊厳についての授業につなげた西宮東高(兵庫県西宮市)の実践もある。良書、悪書と大人が決めつけた時点で教材として生かされる可能性は閉ざされる。

しおみ・のぼる
 京都大教育学部卒。1960年、大阪市立図書館司書。71年、大阪教育大講師。同大教授、同大付属図書館長などを経て2002年退職。05年から13年5月まで日本図書館協会理事長。著書に「教育としての学校図書館」「教育を変える学校図書館」など。京都市出身、同市在住。

(2013年9月26日朝刊掲載)

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