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社説・コラム

天風録 『しゃぶしゃぶ異聞』

 しゃぶしゃぶは意外にも、戦後に生まれた料理らしい。それも関わったのは鳥取の医師という。民芸運動家でもあった亡き吉田璋也(しょうや)さん。東京国立近代美術館で開催中の「柳宗悦没後60年記念展 民藝(みんげい)の100年」で知った▲大戦中に軍医として赴いた北京で、薄切りの羊肉を湯にくぐらせる鍋料理に出合う。戦後に一時暮らした京都で料理店の主人に調理法を教えた。手に入りにくかった羊は牛肉に代えて、日本人好みに昆布だしを使って▲やがて肉を泳がせるさまから、しゃぶしゃぶと名付けられた。昭和30年代の民芸ブームとともに広まったという。豚肉にブリ、レタスなど具材は多彩で地域色が出るのも面白い▲ことし没後50年を迎える吉田さんは、古里の焼き物や木工に光を当てた。移りゆく生活様式に合わせてデザインし、鳥取と東京・銀座に「たくみ工芸店」を設けて販路を開く。作り手の生活を支え、手仕事を今に残した名プロデューサーといえよう▲地元食材を民芸の器と家具で供する「たくみ割烹(かっぽう)店」も鳥取に開いた。使い手を掘り起こし、その声を製品に反映させた。しゃぶしゃぶの原型になった「すすぎ鍋」も味わえる。きょうは大寒。湯気が恋しい。

(2022年1月20日朝刊掲載)

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