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連載・特集

広島世界平和ミッション 第五陣の横顔 <3> ジェームス・ジョセフさん(48) 広島県海田町

母国インドと橋渡し

 「核兵器廃絶を願う被爆地の思いは感じてもらえても、厳しい目にさらされることもあるだろう」。母国インドへの平和ミッション訪問で、予想される厳しい反応を流ちょうな日本語で説く。

 被爆地からの使節団とはいえ、米国の「核の傘」に守られた日本人が核保有国に出掛け、核廃絶を訴えても十分説得力を持たない―。インド人の考えを代弁するように言う。

 首都ニューデリーから、妻の実家がある広島に移り住んで、もうすぐ十三年。会社勤めを始め、土・日曜に時間が取りやすくなったここ数年は、平和関連の講座や集会に顔を出したり、インド、パキスタンの青少年を広島に招く市民活動を手伝ったりして、被爆地の実情にも触れてきた。

 原爆の惨禍を目の当たりにするたび「地球上から核兵器は廃絶すべきだ」と強く思う。だが、その思いがストレートに、母国の核保有の否定には結び付かない。核兵器が、現実の国際政治の中で「国の力を示す道具として利用されている」からだ。

 「核拡散防止条約(NPT)で定められた米ロなど五カ国だけが保有を許され、他国の開発には圧力をかける。その不平等が存在する限り、廃絶は達成できない」と、NPT体制の矛盾を突く。

 NPTの枠からはみ出た核保有国の国民として、「まず五大保有国こそが脅威を取り除くべきだ」との思いがぬぐえない。いかなる国の核保有も否定する、多くの被爆者の考えとは少し違うことを自覚する。

 「でも、廃絶という最終目的は同じでしょ」。広島で暮らすインド人として、そのためにどうすべきか。被爆者らと行動を共にする母国への旅を通じて見つけたい、と参加動機を語る。

 核保有国の姿勢はすぐには変わらないとみる。「しかし、核廃絶を求める支持者を少しでも増やし、世界の市民が協力し合うことが大切。被爆地と、ガンジーの平和主義が生きるインドの市民は手を結べるはず」

 普段は、東広島市内の自動車関連会社で働く。仕事の都合で、インドだけの参加となる。家族もあり、仕事もあり、日本では外国人という立場でもある。数々の制約がある中で「一過性にならないよう無理なく、継続できる平和活動をしたい」

 ヒロシマに触れた者が抱く「人間としての自然な思い」でもある。

(2005年1月18日朝刊掲載)

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