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社説・コラム

社説 核兵器禁止条約1年 被爆国 なぜ「参加」せぬ

 核と人類は共存できない―。被爆者の訴えを形にした核兵器禁止条約が発効して、きょうで1年になった。59カ国・地域が批准し、3月には初めての締約国会議が開かれる。

 その中に、原爆の惨禍を知る日本が入っていない。条約への署名・批准はおろか、締約国会議へのオブザーバー参加にさえ、政府は背を向けたままだ。

 同盟国である米国に忖度(そんたく)しているのだろうか。ただ、ご機嫌取りに終始していられるような状況ではないはすだ。

 中国やロシアを含めた核保有国は戦力増強に一層力を入れている。自分の国さえよければいいといった保有国の姿勢に押し流されてしまうのか。それとも歯止めをかけるのか。国際社会は岐路に立っている。

広島で賢人会議

 人類存続のため核兵器廃絶が必要だと、日本は正々堂々と世界に訴えなければならない。

 被爆地選出の岸田文雄首相は「核なき世界」をライフワークだと明言している。理想実現のための行動が急がれる。

 もちろん、手をこまねいてきたわけではなかろう。安倍・菅政権に比べ、積極的に取り組もうとしているのは確かである。

 例えば、核兵器廃絶に向けた「国際賢人会議」創設。首相が17日の施政方針演説で打ち出した。外相時代の2017年に設けた国内外の有識者による「賢人会議」を質量とも一層充実させる考えのようだ。米国のオバマ元大統領や旧ソ連のゴルバチョフ元大統領ら各国の政治指導者たちを念頭に、今年前半にも広島で初会合を開くという。

日米が共同声明

 米国最優先の姿勢は、日米両政府の共同声明という形となって、きのう発表された。核軍縮の基礎として、核拡散防止条約(NPT)の重要性を確認する内容で、政治指導者らに広島・長崎訪問を呼び掛けたものの、禁止条約への言及はなかった。

 米国をはじめ核保有五大国の首脳は先日、核戦争回避を「最重要の責務」とする共同声明を発表した。各国のトップが核軍縮に誠実に向き合うよう、日本政府は広島訪問など、あらゆる手だてを使って言葉通りの行動を迫らなければならない。

 おとといは、地球最後の日までの残り時間を毎年示している米科学誌の「終末時計」が発表された。残り「100秒」と3年連続で過去最悪となった。気候危機の問題を含め、現状の厳しさを認識しておきたい。

 核兵器がある限りリスクはなくならない。自身の経験を基に被爆者と共通する考えを主張し続けているのが米国のウイリアム・ペリー元国防長官だ。1962年のキューバ危機では、あわや核戦争に突き進む恐れがあった。相手の攻撃を察知する警戒システムなどの誤作動は、冷戦期に米国で少なくとも3回、ソ連では2回あったという。

 核兵器があったから人類が平和に過ごせたのではない。核兵器があるのに、核戦争に至らなかったのは幸運だったからにすぎない。しかも、その幸運がいつまで続くか保証はない。

次は岸田氏の番

 「人間は間違いやすく、機械は故障する」。ペリー氏の言葉を重く受け止める必要があろう。そうしたリスクを全てなくすには、核兵器廃絶しかない。

 国内では、600を超す地方議会が核兵器禁止条約の批准などを政府に求める意見書を出している。岸田首相は、そうした声にも耳を傾け、禁止条約への対応を考え直す必要がある。保有国の不参加を問題視するなら禁止条約の中に入った上で、保有国が輪に加わるよう汗をかかなければならない。

 かつて対人地雷の禁止条約には当時の小渕恵三外相が、クラスター弾の禁止条約は当時の福田康夫首相が、政府内の反対論を押し切って加盟を決断した。いずれも米国や中国など大国が反対していた中で、国際世論や人道面を考えた結果だった。

 次は岸田首相の番である。核兵器廃絶を目指すなら、まずは禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を決断すべきだ。それが、被爆国の首相としての責務にほかならない。

(2022年1月22日朝刊掲載)

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