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基町癒やし70年 「平和湯」幕 中区の市営高層アパートそば 月内廃業

設備不調など 常連客から惜しむ声

 広島市中区の市営基町高層アパートそばにある銭湯「平和湯」が、30日を最後に廃業する。戦後の復興期から約70年、基町で憩いの場として住民たちに親しまれてきた湯は、店主の坂井照子さんが88歳と高齢になり、ボイラーの不調もあって、のれんを下ろす。(田中謙太郎)

 平和湯は1950年ごろ、被爆者や戦地からの引き揚げ者の応急住宅がひしめく同町で、坂井さんの母、はるみさんが木造2階建てで創業した。周囲には店が多く、「原爆スラム」と呼ばれた、本川沿いのバラック街の住民にも利用された。当時から手伝っていた坂井さんは「よく番台でお客さんの赤ん坊をあやしました」と懐かしむ。

 はるみさんが62年に病死すると後を継いだ。高層アパート建設などの基町再開発に伴い、73年には市が用意した現在の鉄筋2階建ての1階に移転した。高層アパートは当初、浴槽のない部屋も多く、銭湯には客が絶えなかった。しかし浴槽整備が進むと客は徐々に減った。「今はみんな年を取り、近所付き合いも少なくなった」と話す。

 アパートの11階で暮らす坂井さん。階段の上り下りや、湯を沸かすボイラーの調節は体にこたえるが、常連客のため踏ん張ってきた。現在は消毒液を置くなどの新型コロナウイルス感染対策をした上で、火、木、土、日曜の午後4~10時に営業している。営業日は毎回入る無職松島良治さん(72)は「広い湯にゆったり漬かれ、会話が弾む。ここが心のよりどころなのに」と惜しむ。

 アパートは近年、外国人住民が増え、中央公園のサッカースタジアム建設と基町の変化は続く。ボイラーの故障が多くなったこともあって湯を閉じる坂井さんは「銭湯はなくなるけど、町は明るくなるといい」と期待する。

(2022年1月22日朝刊掲載)

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