×

連載・特集

緑地帯 児玉しおり フランスで暮らして30年⑥

 児童書翻訳の仕事と並行して、商業翻訳、通訳、そして日本の新聞・雑誌などに記事を書く仕事も少しずつするようになった。中国新聞には2003~05年に「海の向こうから」というパリの生活のことを連載させてもらった。

 ちょうどその頃、広島市のホームページを見て海外原爆展のことを知り、未開催のフランスでも開催できればと思いつき、パリなど主要都市8市といくつかの博物館に開催をお願いする手紙を書いた。父の入市被爆の経験に関心を持たなかった罪滅ぼしの気持ちもあったかもしれない。唯一前向きな回答のあったナント市で、04年1月の開催が実現した。パリ郊外マラコフ市には美帆シボさんという方がいらして、1980年代から原爆関係の映画上映や展示、被爆者の証言や討論会を行うなどの平和のための活動を続けてこられた。後にパリでも開催された原爆展を通じてシボさんと何度かお会いすることができ、そのバイタリティーに感銘を受けた。

 この原爆展をきっかけに、フランスが実施したサハラ砂漠やポリネシアでの核実験の被害者の問題にも関心を持つようになった。被曝(ひばく)退役軍人会の人やアルジェリアの被害者に話を伺ったり、仏領ポリネシアの放射能被害の実態調査や補償を求める現地の市民団体代表者がパリの国会で開いた報告会に出席したりしたのは貴重な体験だった。2010年の被害者補償法でやっと補償への道が開かれたが、補償認可は難しく、アルジェリアやポリネシアの元実験場の汚染除去作業もいまだ進んでいるとはいえない。(ライター・翻訳家=パリ郊外在住、三次市出身)

(2022年1月25日朝刊掲載)

年別アーカイブ