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連載・特集

緑地帯 児玉しおり フランスで暮らして30年④

 私の人生の一大イベントは出産だろう。夫は英国人なのでフランスに家族はいないが、妊娠中は体調が絶好調だったので不安はなかった。なので、長男の時は産休を産前2週間(通常は6週間)、産後14週間(通常10週間)にしたところ、予定日の2週間前に出産し、前日まで働くことになってしまった。近所の母子保護センターで定期健診や予防接種を無料でしてもらえたし、2人の子が病気になっても夫の協力や職場の柔軟な対応のおかげで育児に悩むこともほとんどなかった。3歳まで朝から18時半ごろまで自宅で預かってくれる保育ママにも大いに助けられたのだが、長男のお尻の蒙古(もうこ)斑を「あざがある」とまるで虐待のように言われたのには驚いた。ちゃんと説明したら納得してくれたのでよかったが、文化の違いは思わぬ誤解を招くことに気づかされた。

 子どもが幼児学校や小学校に進むと、同級生の親たちとの交流が増えていろいろと教わった。困ったのは虱(しらみ)問題だ。フランスでは幼児の髪の毛につく虱の流行が頻繁にあり、虱取りシャンプーで対処していたのだが、ある日、「息子さんの頭にはまだ虱がいますよ。ちゃんと駆除しないのなら来週は学校に来ないように」と校長から言い渡されてあわてた。親仲間に相談すると、もっと強い薬を薬局で買って、それを家族全員の頭にスプレーして一晩おき、翌朝専用の櫛(くし)で死んだ虱を取るといい、と教えてもらった。早速アドバイスの通りにし、おかげで「停学処分」をまぬかれたわけだが、日本で虱を経験していない私には青天の霹靂(へきれき)だった。(ライター・翻訳家=パリ郊外在住、三次市出身)

(2022年1月21日朝刊掲載)

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