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連載・特集

緑地帯 児玉しおり フランスで暮らして30年⑤

 フリーペーパーをやめて時間に余裕ができたので、日本文化をフランスの子にも知ってもらおうと、日本の絵本の読み聞かせを次男の幼稚学校の先生に提案して了解をもらった。自分で「ももたろう」を仏訳して友人が直してくれたのを日本語と仏語で読んだ。子どもの反応は鈍かったが、これをきっかけに仏語絵本を邦訳してみたいと思いついた。大好きだったオルガ・ルカイユの絵本を某出版社に提案して、同じ作者の別の本を訳させてもらえたのが最初だ。

 図書館でせっせと絵本を借りて読むうちに絵本の魅力にはまった。フランスの絵本はかなり“芸術的”だ。パステル、グアッシュ、切り絵などいろいろな手法を用い、はっとするほど美しいものもあれば、恐ろしく雑だったりする。私が日本の出版社に薦めたものの多くは、「ストーリーが大人っぽすぎる」「話が尻切れトンボ」などの理由で断られた。日本ではテーマがあって話が完結したものが好まれるようだ。フランスでは子供向きと意識せず作者が自由に作っているのだろうか? 読み物でも、10~12歳対象の小説が社会問題や性の問題を当たり前に扱っていたりする。

 息子たちは小学校高学年になっても、デュケノワの「おばけ」シリーズ、センダックの「まよなかのだいどころ」などを読んでくれとせがんだ。さすがに中学に入ると流行(はや)りの「ハリー・ポッター」や「エラゴン」を買ってやったが、読み終えた形跡はない。学校で課題図書を強制的に読まされたせいか、残念ながら2人とも読書好きにはならなかった。(ライター・翻訳家=パリ郊外在住、三次市出身)

(2022年1月22日朝刊掲載)

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