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広島世界平和ミッション インド編 非暴力の行方 <2> 市民意識 核自衛と廃絶 思い相反

 核弾頭搭載可能な中距離弾道ミサイル「アグニ2」に、子どもたちが登ってはしゃいでいる。デリー中心部のインド門周辺の広場には、「共和国記念日」の軍事パレードを終えたミサイルや戦車が誇らしげに並べてあった。

 「この辺にしよう」。ミッション第五陣メンバーの会社員ジェームス・ジョーセフさん(48)の掛け声で、五人は二手に分かれ、広場に集う人々に聞き取り調査を始めた。

 「広島・長崎を知っていますか」「インドの核保有に賛成ですか」「パキスタンや米国の保有をどう思いますか」…。用意した同じ質問を人々にぶつけてみる。

 「世の中に原爆を好んだり、広島が繰り返されるのを望んでいる者はいない」。ラジャスタン州から訪れた実業家のソシール・クールさん(40)は、早口で答えた。

威嚇でない■

 広島修道大四年の佐々木崇介さん(22)が、インドの核保有について尋ねると「それは破壊のためではない。平和のためだ」とクールさん。

 「平和のために持つんですか」。納得のいかない佐々木さんが食い下がる。クールさんは「政府がすることにはコメントできない」と、むっとした表情で去っていった。

 メンバーは次々に声を掛けた。焦土と化した広島の写真を示しながら話すと、多くの人は真剣に耳を傾け、「核兵器は廃絶すべきだ」と答える。が、自国の核保有は「平和のため」と賛成し、パキスタンや米国の保有には反対した。

 「インドは自衛のためだが、パキスタンは威嚇のためだから駄目だ」。デリーの教員M・I・バーティさん(23)は語気を強めた。佐々木さんが「インドの保有がパキスタンへの威嚇になっていませんか」と逆に問い掛けると、バーティさんは笑って言った。「インドが威嚇? あり得ない」

 聞き取りをしていると、すぐに黒山の人だかりができた。道をふさいでしまうため、何度も警備の警察官に移動するよう注意された。

 メンバーは、マハトマ・ガンジーが火葬に付された場所にある公園に移り、ベンチで雑談していた若者たちにも声を掛けた。その多くは「ヒロシマ」という言葉にもピンと来ない様子だった。

 「自衛のために核は必要だ。米国のように使ってはいけないけど」。途中から話の輪に加わったデリー大大学院生のビノッド・ジェームスさん(25)が質問に答えた。「それにインドの国民が平和を望んでいても、パキスタン政府は分かってくれない。いつも一方通行だ。結局核を持っていないと平和は保てない」

 ジェームスさんの意見に耳を傾けていた被爆者の岡田恵美子さん(68)が自らの被爆体験を語りだした。持参したA3サイズの資料を広げる。被災写真や広島型原爆がデリーに投下された場合に想定される被害状況を示した地図だ。

支援メール■

 「戦争は勝っても負けても失うものばかり。再び核兵器が使われたら世界は滅びます。印パの若い人たちが対話し、協力して核をなくす方向に持っていけないだろうか」

 真剣に耳を傾ける若者たち。ジェームスさんは「ぼくたちが平和や核兵器について考える動機付けになった」と言い残して、その場を去った。

 岡田さんの願いは届いたのだろうか…。

 翌日、広島のミッション事務局から一通の電子メールが転送されてきた。それにはジェームスさんの連絡先とともに、こう記してあった。「あなた方の活動を何でも手伝いたいと思い、メールしました。私はあなたたちの話を友人に伝えることならできます。この出会いは忘れません」

(2005年3月17日朝刊掲載)

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