×

社説・コラム

社説 名護市長選自公系勝利 辺野古容認と言えるか

 沖縄県名護市長選で現職の渡具知武豊(とぐち・たけとよ)氏が再選された。同市辺野古に米軍普天間飛行場(宜野湾市)の機能を移設する政府の計画を支える自民、公明両党から推され、玉城デニー知事ら計画に反対する「オール沖縄」が支援した新人を破った。

 岸田文雄首相は選挙結果には直接言及せず、松野博一官房長官が「普天間の早期返還につながる」として辺野古移設を粛々と進める考えを示した。

 だが、この与党系勝利で辺野古移設が容認されたとは言い難い。渡具知氏は「国と県の対応を見守る」として移設問題に触れず、「黙認」という形で市政運営を続けてきたからだ。

 渡具知氏の対応には政府にあらがえない地域の苦悩も感じられる。沖縄県には国内の米軍専用施設の7割が集中、基地負担軽減を求める声は党派を超えて一致している。政府はそうした思いに耳を傾けねばならない。

 渡具知氏は選挙戦でも辺野古問題を棚上げし、米軍再編交付金で給食費や子どもの医療費を無償化した実績を訴えた。地域振興など経済対策を強調したことが奏功したのではないか。新型コロナウイルス禍で地域経済が落ち込み、市民が基地問題より経済対策を重視せざるを得ない事情もあったのだろう。

 渡具知氏も再選後の会見で辺野古計画への反対が多いことを認めつつ「そこだけ突出して首長が叫んでも実際に工事は止まらない」と述べていた。

 辺野古の賛否を問う2019年の県民投票では、反対が7割を超えた。にもかかわらず政府は結果を無視する形で辺野古沖の埋め立てを強行してきた。

 いくら移設反対を訴えても辺野古沖の埋め立ては止まらないのか―。県民投票後も工事を強行する政府の姿勢に市民が諦めを感じたのであれば深刻だ。

 名護市長選の投票率は前回を8ポイント以上も下回り、過去最低に落ち込んだ。市民の諦めが投票率低下を招いたとすれば、民主主義と地方自治の根幹を揺るがしかねない危機である。

 「基地か経済か」を迫る政府のこれまでのやり方は強権的すぎよう。名護市への年間15億円ほどの再編交付金は反対派が市長の間は凍結され、渡具知市政になると再開された。凍結時には市の頭越しに市内に直接、補助金が渡される異例の対応も取られている。

 こうした「アメとムチ」で自治体を誘導する手法は、空母艦載機移転で揺れた岩国市でも使われた。地域を分断するような政府のやり方は容認できない。

 オール沖縄にとっては、昨年秋の衆院選で県内4小選挙区の二つを落としたことに続く敗北となる。名護市長選と同一日程の南城市長選でも、与党系に敗れた。夏の参院選、秋の知事選への影響も小さくなかろう。

 辺野古では現場海域で軟弱地盤が見つかり、工事完成が30年代半ばまで延びる見通しだ。普天間返還もさらに10年近い年月が必要となりかねないのに、政府が辺野古移設を「唯一の解決策」と言い張るのは誠実さを欠く。政府は普天間の即時返還を米国に求め、新たな負担軽減策も模索すべきではないか。

 基地負担を沖縄に押し付けてきた「本土」側の論理も問われている。政府がその姿勢を改めない限り、米軍基地を巡る分断と対立の解消には程遠い。

(2022年1月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ