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連載・特集

緑地帯 児玉しおり フランスで暮らして30年⑧

 こうして振り返ってみると、「何かを書く」ということ以外はあまり一貫性のない仕事をしてきたなあと思う。フランスでの生活に慣れてみると、どこでも人間は同じように生きることに必死なんだと感じた。「フランス人は○○、日本人は○○」という人もいるが、生活習慣やものの考え方は違っても、フランス人にも日本人にもいろいろな人がいるのは同じだ。

 日本ではあまり文化的なものに縁のなかった私が、フランスの1990年代という比較的生きやすかった時期に、仕事を通じて演劇、美術、音楽などに触れられたのは、文化を大切にするフランスという国のおかげかもしれない。子どもがいても女性が働きやすい労働環境を享受できたのも幸運だった。

 フランスは2015~16年にかつてないイスラム過激派組織によるテロの被害を被った。そのトラウマや中東からの難民流入のためか、反ムスリム感情が高まり、4月の大統領選挙候補のうち移民・外国人排斥を唱える極右候補2人の支持率が世論調査で合わせて30%に上る。ムスリムがフランスを征服するという陰謀説を信奉する極右団体の活動も前より活発化しているそうだ。

 英国EU(欧州連合)離脱、トランプ大統領就任で見られるように、自国の利益しか考えない内向きの考えにフランスも冒されているのか? 一方で、若者の環境保護意識は高まっており、工業的畜産に反対してベジタリアンになったり、プラスチックごみに敏感な人が増えている。大都市から中小都市や田園部への移住が増えたように、コロナ禍で人々の生き方も変わりつつあるようだ。 (ライター・翻訳家=パリ郊外在住、三次市出身)=おわり

(2022年1月27日朝刊掲載)

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