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社説・コラム

『記者縦横』 「共存」へ 基地は努力を

■岩国総局 永山啓一

 大学時代の専攻は森林の生態学だった。ツキノワグマと人間の共存、外来種と在来種の共存は可能か…。こんなテーマにも関心を持っていた。ふと思い出したのは、担当する岩国市の取材で「共存」という言葉をよく聞くためだ。

 市が掲げる米軍岩国基地との向き合い方の基本方針を「基地との共存」という。国の防衛政策に協力し、米軍機の騒音などの負担を一定に受け入れるだけでなく、基地を生かしたまちづくりを進める。基地関係の国の財源で子どもの医療費や給食費の無償化を実現し、英語教育や、市民と米軍関係者の交流も促す。

 だが昨年末以降、この市のスタンスに批判が強まっている。対策の緩かった基地由来とみられる新型コロナウイルスの感染が市内でも急拡大し、成人式の延期や飲食店の休業、学級閉鎖など市民生活への影響が広がっているからだ。

 米軍関係者を積極的に呼び込む飲食店や商店主からさえ「市はもっと米軍の組織としての反省を促すべきだ」と厳しい声を聞いた。

 生態学の用語では「共存」に、複数の生き物が仲良く暮らすという意味はない。むしろ同じ生息域で競合や対立をしつつ、なんとか命をつなぐ状態を示す。それぞれが互いを必要とする場合は「共生」と呼ぶ。ツキノワグマと人間は共存できても、共生はしない。

 「基地との共存」とは、基地と市民が相互の努力と我慢をしなければ破綻する危うい関係を示す言葉だといまは理解している。

(2022年1月28日朝刊掲載)

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