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広島世界平和ミッション インド編 非暴力の行方 <7> ヒンズー至上主義 自国をたたえ核正当化

 ミッション第五陣一行が、インド中部ナグプールにある「民族義勇団(RSS)」の本部を訪ねると、渉外担当のシディール・ダラドパンデさん(54)が駐車場で迎えてくれた。そり上げた頭にサングラス。先入観からか怖そうに見える。

 RSSは一九二五年、多様な宗教と民族が共存するインドで「ヒンズー単一民族主義」を唱え、ナグプールに誕生した。過激派とされる「世界ヒンズー協会」や「インド学生会議」など数々の下部組織を持ち、全土で約三百万人が活動している。前与党のインド人民党(BJP)は、その政治部門だ。

 一行は金属探知装置を備えたゲートをくぐり、玄関近くの応接室に通された。大きなインドの立体地図を背に、精神・思想部門指導者のランガ・ハリさん(75)がいすに座った。小柄な体に白の民族衣装をまとう。

 「世界の国々は、それぞれが持つ歴史や独自性を守るべきだ」。緊張した面持ちのメンバーを前に、ハリさんは張りのある声でRSSの思想を語り始めた。

 RSSは私利私欲を捨て、自らの「ダルマ(規律)」を保つことで、国家の発展に貢献する非政府組織だという。

 「インドは四七年に独立したが、まだ本当の意味で自由ではない。独立を守りたかったら、自国の主張ができる国にならなくてはいけない。その国家をつくるのがわれわれ国民だ」

心身を鍛錬■

 団員はそのための鍛錬をする。大学や貧困地域など、インド各地に約六十万ある「シャーカ」(支部)で、毎日朝夕集まってはヨガ、武術など精神と身体のトレーニングを一時間積む。集中力や団結力が養われ、愛国心が育つそうだ。

 「インドは他国を侵略した歴史がない素晴らしい国だ」。ハリさんは誇らしげに話した。

 メンバーが核保有について問うと「インドの核政策は正しい」と当然のことのように答えた。「世界には核兵器を持って力で押さえ込もうする国があるのだから、インドも対抗できるだけの力を持たなくてはならない」

 そばにいたダラドパンデさんが「そろそろ行かなくては」とハリさんを促した。次の予定が入っているという。

 話し足りないメンバーに「これを最後にせず、また対話の機会を持ちましょう。日本に行ったら歓迎してくれますか」とハリさん。被爆者の岡田恵美子さん(68)が歩み寄って折り鶴を手渡し、「広島を案内しますからぜひ来てください」と、彼の手を握りしめた。

 眼鏡の奥のハリさんの目元が緩んだ。「核の話をした時は怖い顔だったけれど、こうして話していると本当は優しい方なんですね」。岡田さんの言葉にハリさんは「私は独身で家族もなく、六十年をヒンズーの神々にささげてきたんだよ」と穏やかな口調で返した。

人間は善良■

 その夜、一行がナグプール空港でムンバイへ戻る便を待っていた時のことだ。「やあ」と、修道大四年の佐々木崇介さん(22)に、高齢の男性から声が掛かった。ハリさんだった。同じ飛行機でムンバイに向かうという。

 四十分余りの待ち時間、再び対話が始まった。今度はRSS幹部ではなく、普通のおじいさんとして。

 メンバーが、インドに続いてパキスタンを訪ねることを伝えると、ハリさんは「人間は元来みんな善良なんだ」と言い、佐々木さんのノートを取って、ペンを動かした。

 「世界の平和のために私たちは皆、きょうだいとして、愛し働こう」―こう英文のメッセージがしたためてあった。

(2005年3月24日朝刊掲載)

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