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連載・特集

都心の再開発 本格化 広島市22年度予算案 平和や子育ても注力

 広島市は31日、2022年度当初予算案を発表した。サッカースタジアム建設やJR広島駅前再整備など都心再生へのハード事業に引き続き重点配分。「平和文化の振興」や被爆体験の継承、教育、子育ての環境改善に取り組む。高齢化や担い手不足に直面する地域コミュニティーの再生にも力を注ぐ。

平和の創造

首長会議40年 8月総会

 松井市長が会長の平和首長会議が昨年まとめた新ビジョンで掲げた「平和文化の振興」が柱となる。

 本年度から「平和文化月間」と位置付けた11月に、平和文化をテーマにしたコンサートや講演会を開く。広島広域都市圏にある他の24市町にも平和文化に関わる取り組みを呼び掛けており、共通のイベントカレンダーやのぼりなどを作って一体的にPRする。

 平和文化の考え方を解説する冊子を約5千部作り、市民や首長会議の加盟都市に配る。市民による平和活動の輪を広げる方策などを探るワークショップも開催。8月にはコロナ禍で2度延期されている首長会議の総会と、設立40年記念行事を市内で開く。

 被爆の記憶の継承に向けては、被爆者の体験をその子どもや孫が伝える「家族伝承者」養成に乗り出す。5月ごろから希望者を募る予定。2年間の研修で学んだ後、原爆資料館(中区)で講話するなど被爆体験を伝える活動をしてもらう。

 国際社会に核兵器廃絶を訴える取り組みも続ける。コロナ禍で延期が続き、今春の欧州開催を視野に調整されている核拡散防止条約(NPT)再検討会議に松井市長が出席するための費用を計上。松井市長はスペイン・グラノラーズ市で開催予定の首長会議ヨーロッパ支部会議にも出席予定でいる。(水川恭輔)

都市機能の充実

駅前予算4倍増 サカスタ工事

 市中心部のJR広島駅前と紙屋町・八丁堀地区周辺で大型のハード事業が加速する。

 20年11月に始まった駅前南口広場(南区)の再整備には、21年度当初予算の4倍の57億7400万円を計上。路面電車が新たな駅ビル2階に乗り入れるための高架の基礎工事や橋脚建設を本格的に進める。駅前の商業施設エールエールA館(南区)に中央図書館(中区)を移す予算も入れた。

 紙屋町・八丁堀地区周辺にある中央公園(中区)では、2月にサッカースタジアム本体を着工予定。77億4800万円を投じ、スタジアム本体を支える基礎工事や地上部分の骨格の工事を進め、24年2月の開業に向けて建設を進める。周辺の幹線道路をまたいでアクセスを良くする歩行者専用橋も工場で造り始める。

 中央公園内の旧市民球場跡地では、民間の資金やノウハウを生かす「パークPFI」の手法を活用し、23年3月に屋外イベント広場を完成させる。民間事業者が今年4月から整備し、遊歩道や屋根も含めて市が買い取る費用を盛り込んだ。近くにはスケートボードパークを整備し、ジャンプ台設置などに充てる2千万円を組んだ。

 広島城の魅力を上げようと、三の丸に建てる刀剣などの展示館の設計も始める。市が検討中の広島城天守閣の木造復元では、実現の可能性を探る石垣の調査や資料収集を続ける。

 紙屋町・八丁堀地区の市営基町駐車場一帯では、地区最大級となる31階建ての高層ビルを建てる再開発事業が本格的に始動。設計やボーリング調査をする。

 交通関係では、アストラムラインの広域公園前(安佐南区)からJR西広島駅(西区)までの延伸で、ルート上の六つの新駅の大きさや形状を決める基本設計に入る。広島高速4号を山陽自動車道に結ぶ事業を実現するため、必要な手続きを進める予算を入れた。(新山創)

子育て・教育

市立小 トイレ洋式化

 市立中では、デリバリー給食から温かい給食への移行を始める。22年9月に5校、23年4月に10校で予定しており、食器や配送車を配備する費用を盛り込んだ。25年度を予定する可部地区学校給食センター(安佐北区)の新築移転では事業者公募の準備を進める。

 市立小のトイレ洋式化も進め、25校の計539基を改修する。国が公立小中の洋式化率を25年度までに95%とする目標を定めたことを受けて取り組む。

 不登校や不登校になりがちな児童生徒を対象に市立小中に設けている「ふれあいひろば」を拡充。終日開室をほぼ全校に広げる。

 子育て分野では、貧困や障害といった困難を抱える「特定妊婦」への支援を始める。市内の既存施設を使い、妊婦や母子が生活できる専用居室を設置。看護師と相談支援員を配置し、妊娠時から出産後まで寄り添う態勢を整える。

 子育て全般の相談援助機関として児童相談所などを補完する「児童家庭支援センター」を新設する。社会福祉法人などが設置と運営を担い、市が必要経費を補助。専門知識のある臨床心理士や社会福祉士が虐待や非行など幅広い相談を受ける。

 各区役所の市民課には、出生に関する手続きのワンストップ窓口を設ける。専用のシステムを導入し、児童手当や医療費補助など全15手続きの申請書を一括して発行できるようにする。(小林可奈)

人・地域づくり

空き家改修に補助

 中山間地域の空き家を活用し、定住につなげる取り組みを市内4カ所で始める。民間に委託し、空き家の相談や借り手と所有者の橋渡し、契約のサポートなどに取り組む。空き家のリフォームも支援し、住居として用いる場合は100万円、カフェなどの店舗や宿泊施設にする場合は1千万円を上限に改修費の半額補助を始める。

 企業の地域貢献活動も促す。従業員が地域活動に参加する際に利用できる休暇制度を設けた企業を市のホームページで紹介。積極的に取り組めば認定マークを提供する。働く人自らが出資し、課題解決のために働く「協同労働」の普及に向け、メンバーの半数以上が60歳以上としていた補助金の交付要件を撤廃する。地区社会福祉協議会や町内会を対象に、協同労働の仕組みを学ぶ勉強会も開く。

 このほか、商店街が地域団体と協議会を設け、活性化の計画を作る経費を補助する。地域防災力の強化では、減少を続ける消防団員を確保するため、平日の日中限定で活動する機能別団員制度を導入。元消防団員や消防の元職員を対象に募る。学生を対象としたサポーター制度も創設する。(余村泰樹)

市債残高 最高見通し 1兆1985億円 発行は減額

 市の財政は依然として厳しい。サッカースタジアム建設やJR広島駅前の再開発など、借金を伴う大型事業が続く。財政課は「年度によって負担額が偏らないよう平準化を意識している」と説明する。

 22年度の市債発行額は、前年度から31・3%減の690億8400万円。税収が伸びると見込むほか、国からの地方交付税の不足分を立て替える臨時財政対策債(臨財債)の発行を大幅に減らした影響が大きい。恵下埋め立て処分場(佐伯区)の建設など大型事業が進み、その分の市債発行が減ったことも要因だ。

 それでも、市債残高は1兆1985億円と過去最高を更新する見通し。後に地方交付税で補われる臨財債と、借金返済のために積み上げた基金を除いた「実質的な市債」の残高は6849億9300万円と0・1%の微減にとどまる。一方で、貯金に当たる財政調整基金は21年度末より19億9700万円減り、98億2300万円となる。

 将来世代に負担を先送りしないよう市は財政運営方針で、実質的な市債残高を23年度までの4年間で5%減らす目標を掲げている。22年度の当初予算ベースでは目標の達成は困難な情勢だが、同課は「決算ベースでは達成できるペース」としている。(新山創)

【解説】大型投資 十分説明を

 広島市の2022年度一般会計当初予算案は、都心のまちづくりに重点投資を続ける。今後も市が主導する大型事業はめじろ押しだ。投資の狙いや効果について、市民への説明がいっそう重要となる。

 かつて複数の建設地が浮上したサッカースタジアムは本体工事が本格化。活用策が長年定まらなかった旧市民球場跡地ではイベント広場を造る。これらハード事業から息つく間もなく、市はアストラムラインの延伸や市営基町駐車場一帯の再整備などを進める。

 中でも賛否が渦巻くのは、老朽化している中央図書館の移転計画だ。現地での建て替えでは一時的な代替施設が要る点などを踏まえ、市はJR広島駅前の商業施設「エールエールA館」への移転を打ち出し、当初予算案に設計費などを計上した。駅前広場の再整備との相乗効果で、にぎわいづくりや文化振興に貢献する施設にしたい考えだ。

 ただ、結論ありきで急いでいる感は否めない。市が移転候補地として駅前周辺を市議会に示したのは昨年9月。同11月にはA館への移転を表明した。市議の一人は「A館の何階分を図書館に使い、テナントの了解は得られているのか。具体的な中身が分からない中で適地と言えるのか。唐突感は否めない」と指摘する。

 市は、この移転計画には国の財政支援が見込める利点なども強調する。松井一実市長は31日の記者会見で今回の設計費などの計上について「市の考え方や、どれくらいの予算がかかるか知ってもらうため。必要なら分かりやすく説明したい」と述べた。まずは、予算案が審議される7日開会予定の市議会定例会での説明に注目したい。(久保田剛)

(2022年2月1日朝刊掲載)

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