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社説・コラム

天風録 『石原慎太郎さん逝く』

 小欄では名の通った人をよく引き合いに出す。現役生活が長ければ登場回数も多い。数えで百寿の大往生を遂げた作家、瀬戸内寂聴さんの場合は本紙データベースでたどれる平成以降だけで11回、その名がのぞく▲この人は、倍の22回を数える。大学在学中に書いた小説「太陽の季節」で芥川賞をさらい、その後政界で運輸相や東京都知事を務めた石原慎太郎さんである。きのう訃報に接した。89歳▲「暴走老人」を任じ、平成に入って小欄に登場した時も物議を醸していた。衆院議員だった石原さんが米誌に「原爆投下は人種偏見」「大虐殺」と自説を開陳。返す刀で中国大陸での旧日本軍の侵略行為とは訳が違うとも。小欄は「国家主義を振りかざすための原爆被害論」や八つ当たりの中国たたきをとがめている▲一方で、ベテラン国会議員の特権だった肖像画を断る。都知事時代に「銀行税」導入で政府にけんかも売った。「ノー」が頼もしかったのか、理想の父親像では上位に入ったこともある▲護憲派の寂聴さんとは政見こそ異にしたものの、人生を巡る往復随筆集を出版している。二人とも晩年たたられたがんの闘病談議に、あの世で花が咲いているだろうか。

(2022年2月2日朝刊掲載)

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