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社説・コラム

社説 ミャンマー軍政1年 市民弾圧 まだ続けるか

 ミャンマー国軍がクーデターを起こして、きのうで1年になった。民主化指導者のアウンサンスーチー国家顧問兼外相らを拘束して、非常事態宣言を発令、実権を握った。

 その後も、国際社会の自制要請を無視して、抵抗する市民に銃を向け続けている。現地の人権団体によると、おとといまでの集計で1500を超す人が亡くなり、8千を超す人が拘束されたままだという。

 民主主義を弾圧し、人権を踏みにじる暴挙が1年後の今も続いているのだ。看過できない。

 国軍は来年8月までに総選挙を実施するという。ただ、自分たちに有利な比例代表制を導入して、権力は手放さない考えのようで、あきれるほかない。

 国軍は武力行使を即刻やめて、拘束されている関係者を解放すべきである。その上で、民主主義と法の支配に基づく政治を復活させなければならない。

 クーデターについて、国軍はスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が大勝した2020年11月の総選挙で不正があったためだと説明している。言葉通り受け止めた人がどれだけいるのだろう。選挙で大敗し、追い込まれた国軍が既得権益を守ろうと仕掛けたに違いあるまい。

 いくら武力で弾圧されても市民が抵抗をやめようとしないのは、国軍の説明を信じていない証しだろう。きのうも、抗議のため出勤や外出を控えるよう呼び掛けた「沈黙のスト」への賛同者は少なくなかった。

 この1年、国内は混迷を深める一方だ。特に深刻なのは国民生活への打撃である。欧米などの大手企業撤退や経済制裁で、昨年9月までの国内総生産(GDP)は前年比で18%も下落。5年前の水準に落ち込んだ。

 この1年で約160万人が失業した。あおりで国民のほぼ半数の2500万人が「貧困ライン以下の生活」を強いられているという。その責任は国軍にある。利権目当てで、いつまでも政権の座にしがみついているつもりなのか。国際社会の厳しい目も自覚する必要がある。

 ミャンマーを担当する国連の独立調査機関(IIMM)に寄せられた報告によると、人道に対する罪か、戦争犯罪に該当する可能性のある状況で、千をはるかに超す人が殺害されたという。きのう明らかにした。証拠を集めて、責任を追及しなければならない。

 国際社会の協力が今こそ求められている。にもかかわらず、孤立するミャンマーに救いの手を差し伸べる国がある。香港で民主主義を弾圧し、新疆ウイグル自治区では人権を侵害している中国である。力で人々を言いなりにさせている点では、同じ穴のむじなと言えようか。欧米などの国が停止した後も、ミャンマーへの投資を続けている。

 ミャンマーが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)も、効果的な打開策を見いだせていない。カンボジアをはじめ親中国で国軍に融和的な国と、国軍に批判的なシンガポールなどと意見が割れているからだ。

 それだけに、国連をはじめ国際社会は国軍への働き掛けをさらに強める必要がある。

 日本の責任も問われる。国軍とのパイプを自負してきたからだ。それを生かして、事態打開を迫り、市民への武力を即座にやめさせなければならない。

(2022年2月2日朝刊掲載)

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