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連載・特集

[中国新聞Under35] 広島の街登場 リアルな描写 ドラマ「ミステリと言う勿れ」原作漫画 美しい景色 被爆地の今

 放送中のテレビドラマ「ミステリと言う勿(なか)れ」(テレビ新広島などフジテレビ系)の原作は、小学館の月刊フラワーズで連載の同名の漫画だ。単行本の累計発行部数は1300万部を突破。主人公の大学生が事件の謎を解き明かしていく痛快さに加え、さらなる読みどころは原作に広島の街が登場すること。生き生きとしたリアルな描写が地元ファンの注目を集めている。(福田彩乃)

「素晴らしい地」

 既刊10巻のうち、2~4巻の物語の舞台として広島が描かれている。それは、主人公の久能整(くのうととのう)が目当ての展覧会を見るため、広島県立美術館を訪れるシーンから始まる。残念ながらテレビドラマでは広島は登場しないが、だからこそ原作の描写が目を引く。愛読者である同館の神内有理主任学芸員(47)は「外観が本物そっくり。もううれしくて」と声を弾ませる。

 他にも見慣れた広島の景色が登場する。それは原爆ドームや宮島といった著名な場所に限らない。広島市中心部の元安橋そばのカフェや本通り商店街、洋菓子製造販売のバッケンモーツアルトの店舗など、生活に溶け込んだ街の姿に引き込まれる。

 著者の漫画家、田村由美さんは和歌山県出身で東京都在住。「広島は描いてみたい土地だった」と語る。大きな都市でありながらごみごみしておらず「ロケーションとして素晴らしい」。2018年に2回、取材に訪れ、「現地で見聞きしたもの、感じたことの一つ一つが自然と作品に表れたんだと思う」と語る。

 被爆地という歴史にも思いをはせた。「ここで何があったのか、どんな思いでその日を生き、身体と心を先につなぎ、美しい街に戻したのか、その痛みは想像できるものではない」。だからこそ、現在の広島を丁寧に見つめようとするまなざしが、リアルな描写から伝わってくる。

社会的なテーマ

 作品は、虐待や格差といった社会的なテーマに切り込む。整という圧倒的な存在感を放つ主人公によって物語は運ばれる。「僕は常々思ってるんですけど」という決まり文句に始まり、社会への疑問や常識への違和感を口にしていく。

 「作品から気付かされることは多い」と話すのは県内の書店員たち。丸善広島店の中島伏美子さん(51)は「整が多角的に物事を考え、自分なりに語る姿が印象深い」と語る。

 ジュンク堂書店広島駅前店の三浦明子さん(45)は「今は、整のように自分で考え、自分の言葉で話すのが難しい時代」と指摘する。デジタル社会では情報が容易に手に入り、何事も分かった気分になりがちだ。ネット上で交わす言葉はどんどん短くなっている。「整は、現代人が面倒だと思って避けがちなことをちゃんと実行している。自分はどうだろうと一人一人が考えるきっかけになるかもしれない」

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 漫画「ミステリと言う勿れ」に関する詳しい記事やその他の画像は、投稿サイトnote「中国新聞U35」で。

(2022年2月2日朝刊掲載)

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