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連載・特集

広島世界平和ミッション パキスタン編 希望の灯 <4> 核保有是認 不安抱え抑止力に頼る

 ペシャワルで私立学校を経営するカワジャ・ワシームさん(62)。彼の自宅に夕食に招かれたミッション第五陣一行は、大学教授や弁護士ら集まった地元の知識人十数人と懇談した。

 ワシームさんは三十年来、インド人と信頼醸成をはぐくむための活動を続ける。メンバーはこの日、ワシームさんの学校など四校を回って「平和授業」をした。彼はミッションの活動ぶりを招待者に説明し、ヒロシマを伝える意義を語った。

米への反発■

 しかしその時、地方の政治家だという初老の一人が、異を唱えるように声を上げた。「あなたたち日本人は、まず米国の核の傘にいる日本政府に働きかけるべきだ」

 口火を切ったように、ほかの数人も続いた。「印パの前に米国やイスラエルにこそ向かうべきだ」「日本にも核武装論がある。なのにパキスタンで訴えても駄目だ」

 一行は、日本での核武装論は一部であって被爆国として決して核兵器開発は許さないこと、米国にもミッションを派遣することなど、一つ一つの批判に答えた。その説明に大方は納得したが、そうでない者もいた。

 「考えれば米国を中心に回る世界情勢からすれば、パキスタンの核保有なんてささいなこと」。ワシームさんの弟で、政党役員も務めるカワジャ・ナシールさん(49)が、そばにいたメンバーに言った。

 「結局、米国が世界に核兵器やその他の武器を拡散させている。核兵器には反対だが、今の世界では防衛のために仕方ない。それが多くのパキスタン人の本音だ」

 ナシールさんの言葉には、力の論理が幅を利かす国際政治の中で、核兵器保有を是認するこの国の多くの知識人の思いと、米国への反発がにじみ出ていた。

 首都イスラマバードの集会所で開いた「ヒロシマセミナー」。近郊の約二十の高校から、生徒や引率教員ら百人余りが集まった。被爆の惨状や放射線の影響を伝えるビデオ上映後、被爆者の岡田恵美子さん(68)が体験を証言。生徒たちは真剣な表情で耳を傾けた。

生徒と対話■

 終了後、生徒たちはメンバーに駆け寄り、思いをぶつけた。誰もが一様に「被爆体験を聞いて二度とあってはならないと思った」と感想を口にした。が、続きがあった。

 「インドが核兵器を保有しているのに、わが国が持たないのは不均衡だ」(14歳・女)「核兵器を持たないと国際社会に認めてもらえない」(15歳・男)。

 リーダー格の女子生徒ナエア・ラシッドさん(14)が「私たちは決して心から核兵器保有に賛成しているのではない。平和を保つために持った方がいいと考えるのです」と、みんなの思いを代弁するように言った。

 市民団体代表の渡部朋子さん(51)が、テロリストなどよる核使用や偶発事故の危険性を挙げて優しく説いた。「抑止論に頼るより、すべての保有国が核をなくすように、世界の市民が手をつなぐ方が大切だと思いませんか…」

 同じ日の午後にあったホテルでの市民集会でも、核兵器廃絶の方法をめぐって議論になった。参加者の一人が「すべての国から核廃絶をと言ってもそれは理想論。アフガニスタンもイラクも、核兵器を保有しておれば戦争を防げたのではないか」と発言した。

 その主張に広島修道大大学院生の佐々木崇介さん(22)が、間髪を入れず反論した。「核兵器で平和は保てないし、核廃絶は決して理想論ではない」と。

 メンバーは各地で対話を重ねながら核保有是認論にさまざまに反論した。だが、どこまで説得力を持ち得たか…。日本の在り方や、すべての核保有国の姿勢が問われていることをあらためて実感した。

(2005年4月14日朝刊掲載)

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