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連載・特集

広島世界平和ミッション パキスタン編 希望の灯 <5> 若い力 印パの関係改善へ光明

 「大人たちには、印パ戦争の思い出もあってインドを憎む気持ちが強い。でも私たちにはそれがない。だから若者から両国の関係を変えていくことができると思う」

 カラチに住む医大二年のサマン・シャヒッドさん(19)は力強い声で言った。二〇〇二年、広島の市民団体による招請プロジェクトで、被爆地を訪問した一人だ。

 第五陣メンバー四人は、カラチ市内のホテルで五人の女子学生に会った。うち四人が広島を訪ね、インドの若者と交流しながら「ヒロシマ」について学んだ。

 「記者会見をして広島での体験を話した」「学校や集会などで被爆の実態を伝えている」「平和人権団体の活動に加わっている」…。帰国後の取り組みについて尋ねると、それぞれが答えた。

原爆知らず■

 工学専攻の大学二年サラ・カリドさん(20)は、体験を話した学校の生徒たちが、ほかの子どもたちにヒロシマを伝える新たなグループをつくり、活動を始めたエピソードを披露した。

 「私がそうだったように、パキスタンの若者は原爆についてほとんど知らないし、教科書にインドのことが悪く書いてあるので、みんなインド人は悪者だと信じている」

 カリドさんたちは最近、メーリングリストを開設。印パ両国の平和や核問題について、インドの若者たちと情報交換している。

 「私たちは簡単にインドには行けない。広島で彼らに会えなかったら、今でもインド人は悪者だと信じていたと思う」。二年前に広島を訪ねたシャバナ・アバスさん(17)とザラ・マルカニさん(18)も口をそろえた。

 東広島市職員の中谷俊一さん(37)が、インドのムンバイで撮った広島訪問体験者のデジタルカメラの画像をみんなに見せると、カリドさんは「やはり若い世代が動かないとね」とほほ笑んで言った。

 彼女たちは被爆地での体験を母国で伝えながら課題も見えてきたという。

胸打つ伝言■

 シャヒッドさんは「この国の社会体制では、受け入れてくれる学校は限られ、新たな発表の場を開拓したり、知識のない人に伝えたりする機会を得るのは厳しい」とこぼす。マルカニさんも「核保有は安全保障のためと、最初から心を閉ざす人も多いから」と打ち明けた。

 彼女たちの指摘は、パキスタンで活動するメンバーの課題でもあった。カリドさんはこれまでの体験を基に助言してくれた。「いきなりパキスタンの核保有や政策を否定すると反発されるだけ。被爆実態をじっくり伝え、なぜ核兵器廃絶が必要かを理解してもらわなくてはいけないと思う」

 一行はペシャワルでも、二年前に同プロジェクトに参加したアシム・カーンさん(17)の高校を訪ねた。カーンさんは「多くの被爆者に会い、核兵器の恐ろしさと、それを経験した被爆地の人たちがどれだけ平和を望んでいるかが分かった」と振り返った。

 彼の案内で一行は教室へ。被爆者の岡田恵美子さん(68)が、生徒たちに被爆写真を示しながら体験を語った。その後、他のメンバーがインドで預かった若者たちのメッセージの一部を、背景を説明しながら手渡した。

 その日の活動を終え、夜遅くホテルに戻ったメンバーに来客があった。カーンさんと同じ高校に通うカルベ・ハスネさん(15)と父親。メンバーの帰りを二時間も待っていたという。手には重そうな画用紙の束と封筒。級友に呼び掛けてインドの若者へのメッセージを集め、届けてくれたのだ。

 「ぼくたちで、平和にしよう。ぼくたちは、未来なのだから」。若者たちがしたためた英文メッセージが、メンバーの胸にひときわ響いた。

(2005年4月15日朝刊掲載)

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