×

社説・コラム

社説 北京冬季五輪開幕 「平和の祭典」になるか

 北京冬季五輪大会が、きょう開幕する。90を超す国・地域の約2900人が7競技の109種目で競う。昨年夏の東京五輪・パラリンピック大会に続き、新型コロナウイルス対策が求められる中での開催となる。

 開会式に先立って、一部の競技が始まり、ムードは高まってきた。日本選手団は海外の冬季五輪史上最多の124選手、監督・コーチらを含めて計262人を送り込む。

 前回の2018年韓国・平昌大会では史上最多のメダル13個を獲得した。今回も3連覇を目指すフィギュアスケートの羽生結弦選手や、ノルディックスキー・ジャンプの小林陵侑選手をはじめ有力選手が多い。厳格な感染防止対策には神経を使うだろうが、晴れ舞台で実力を存分に発揮できるよう期待したい。

 一方で今大会の開催国中国がチベット、新疆ウイグル両自治区や香港の人権侵害で批判を浴びている。深刻な事態であり、見過ごせない。200を超す人権団体や非政府組織が「外交ボイコット」を呼び掛け、米英両国などは踏み切った。日本も政府高官の派遣を見送った。

 五輪は「平和の祭典」であり、開催国が国威発揚や自国の価値観を押し付ける場ではない。あくまでも選手第一の対応が求められるはずだ。

 ところが、中国当局は選手に対して大会中に中国を批判する言動があれば「処罰」する可能性があると警告した。選手の自由な言論を封じ込めようとすることなど許されない。

 元副首相に性的関係を強要されたと訴えた女子テニス選手が自由を束縛され、当局の監視下に置かれているという疑念も拭えていない。中国は人権への懸念に向き合う責任がある。

 国際人権団体は「監視国家では人権は守られない」として選手に発言を控えるよう呼び掛けている。中国当局に情報が抜き取られないようスマートフォンやパソコンの持ち込みをやめた選手団もある。国際社会から不信の目が向けられている現状を中国は重く受け止めるべきだ。

 国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢も問われる。コーツ副会長は「中国における人道的な状況はわれわれの権限外」と述べた。驚くべき発言だ。

 五輪憲章は「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会を奨励することを目指し、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てる」とうたう。人間の尊厳や反差別、連帯などの理念をIOCは忘れたのだろうか。

 東京五輪の時もIOCは、コロナの緊急事態宣言下で不安が広がる中、開催は可能との考えを示していた。開催ありきの言動で、平和の祭典である五輪が商業主義に染まっているとの批判を招いても仕方なかろう。

 五輪の開催自体が揺らぎかねない懸念は他にもある。

 一触即発のウクライナ情勢である。ロシアは周辺に軍部隊を集結させ、五輪期間中にも軍事行動を起こしかねないとの緊張が高まっている。08年夏の北京五輪時には期間中の停戦申し合わせが無視され、ロシアがグルジア(現ジョージア)に侵攻する事態も起きた。

 五輪の開催意義を今こそ問い直さねばならない。人間の尊厳や平和に重きを置く五輪の理念が守れるのか。開催を手放しで喜べるような状況ではない。

(2022年2月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ