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連載・特集

『生きて』 ミカサ前社長 佐伯武俊さん(1939年~) <15> 思い

競技を通じ国結びたい

 海外の経営者や営業担当者とやりとりをする時、己斐での被爆経験を話すようにしていた。原爆のことを知ってもらいたいと思ってね。原爆資料館(広島市中区)を訪れて涙を流す人、真珠湾攻撃を非難する人、「リベンジせんのか」とすごむ人、反応はさまざまだった。言うべきことは言って、しっかりと話し合うのが大切。だけど当時の日本が加害者になったことがあるという歴史も忘れてはいけない。何があっても暴力を振るうこと、攻撃することは駄目だと訴え続けないといけない。

 円高の影響で厳しい時代もあったけれど、ミカサは100年を超える歴史の中で、世界をマーケットにいろんな人にスポーツ用品を届けてきた。スポーツには個々の関係を良くする力がある。少々のいざこざがあっても競技を通じて人は仲良くなれる。そうして国同士のつながりも深くなって、戦争なんてしなくなればいい。

  ≪2020年2月に会長を退任。経営にはタッチせず、妻の国恵さんと自宅でゆっくりとした日々を送る。それでも技術者として、経営者として長年携わってきたミカサへの思いは尽きない≫

 会社のことは気になるね。新聞やテレビで取り上げられていると目に留まるし、競合相手の動向も見てしまう。東京五輪もテレビで観戦した。コロナで仕方ないけど、観客がいないと何か張りがないね。

 ミカサにはモルテン、かつて勤めたトクヤマには東ソーという競争相手がいた。ミカサはモルテンがこんなことをしている、それならこっちはそれ以上のことをやらないと―。そう考えて動いてきた。トクヤマにいたときも東ソーと競り合うライバル意識があった。競争相手がおったら技術も高め合えるよね。一方で自分の所だけが良ければいいというわけではない。何事もバランスが大切だと思う。これからも「これは」という情報があれば、会社に教えてやらなとは思う。陰ながら見守りたいな。=おわり

(この連載は東京支社・口元惇矢が担当しました)

(2022年2月5日朝刊掲載)

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