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社説・コラム

社説 原発のグリーン認定 福島の事故 忘れたのか

 地球温暖化の抑制につながる「グリーンな」投資先として、原発と天然ガスを認定する―。欧州連合(EU)欧州委員会が加盟国に提案した方針である。

 ドイツが原発全廃を決めるなど脱原発の歩みを進めていた欧州で、逆戻りするような動きには驚かされる。

 早速、脱原発を掲げる国々から反発や批判の声が上がっている。当然だろう。

 世界にとって、二酸化炭素(CO₂)の排出削減が喫緊の課題であるのは間違いない。とはいえ、その一点だけで原発依存に回帰する選択をしていいのだろうか。人類と地球をむしばむ「核のごみ」を増やし、後世につけを負わせることになる。

 持続可能な開発目標(SDGs)を国連も掲げるなど、過度の経済成長を追求してきた姿勢の問い直しが求められている。再生可能エネルギーの加速にこそ投資、注力すべきである。

 欧州委が提案した方針は、グリーンな投資先を分類するEUの「タクソノミー」と呼ばれる制度の中で、原発と天然ガスを気候変動対策に適した事業として条件付きで認めるものだ。2023年までの法制化を目指すものの、欧州議会と加盟国の承認が必要になる。欧州議会の過半数か、加盟27カ国のうち20カ国が反対すれば廃案となる。

 「原発は持続可能ではない。リスクが高く、費用がかかりすぎる」とドイツのレムケ環境相は述べ、明確に反対する。オーストリアの環境相は原発に限らず天然ガスの認定にも反対し、EU司法裁判所への法的措置も辞さないと言う。ルクセンブルクも追随する方針だ。

 一方の推進派は、カーボンニュートラル(排出実質ゼロ)の目標を挙げ、グリーン認定の妥当性を訴える。フランスのマクロン大統領は昨年秋、「脱炭素のため原発建設を再び推進する」と表明。ブルガリアやフィンランドもEUの目標達成には原発が不可欠と主張する。

 独仏二大国の立場の隔たりもあり、原発のグリーン認定はこれまで先送りされてきた。今回の方針決定は、燃料価格の高騰とそれに伴う電気料金の上昇などが後押ししたのだろう。加えてウクライナ情勢が緊迫度を高め、ロシアからの天然ガス輸入も不安視される。

 EU欧州委は「再生可能エネルギー主体の未来への移行を促す手段」であり、過渡的な活用だと強調する。だが、グリーン認定すれば、原発事業は投資を呼び込みやすくなり、新増設につながりかねない。

 EUにおいて原発回帰の流れが強まるようなことになれば、世界の潮流にも大きく影響するはずだ。日本の原発を巡る世論も例外ではないだろう。

 温暖化抑止の緊急度や重要性は分かるが、安易な選択は許されまい。原発事故の悲惨をいま一度思い起こす必要がある。

 来月、福島第1原発の事故から11年を迎える。住み慣れた家や土地に戻れぬ被災住民は、まだ数多い。廃炉のめどは立っておらず、汚染水のタンク貯蔵も限界が迫っている。

 国内では再稼働した原発もあるが、たまり続ける放射性廃棄物の処分は決まらぬままだ。

 脱炭素を「口実」にして、原発依存社会に舞い戻ることは、あり得ない―。世界に向け、日本から発信すべきである。

(2022年2月6日朝刊掲載)

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