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社説・コラム

[核禁条約 私の国では] ベルギー フィリップ・デヒーヒェルさん

国内に米戦術核 民意は「撤去」

 ベルギーの連立政権は2020年10月に発足した当初、「核兵器禁止条約が多国間の核軍縮にどのように新たな弾みをつけることができるかを検討する」と前向きな姿勢を示した。だがその後、表だって新しい動きはない。まずは第1回締約国会議に参加するよう、政府への働き掛けを強めていかなければならない。

 ベルギーは実質的に核兵器を保有している状態だ。首都ブリュッセルに北大西洋条約機構(NATO)の本部が置かれ、オランダ、ドイツ、イタリア、トルコと同様に米国の戦術核が配備されている国でもある。

 北東部のクライネ・ブローゲル空軍基地には核爆弾が推定で約20発配備されているとみられる。政府は、核爆弾を搭載できる戦闘機を更新するため、米国のF35戦闘機を購入すると決めた。米軍の訓練を受けたベルギー空軍のパイロットが操縦することになる。

 しかしある世論調査では、国民の7割以上が「国内配備の核爆弾を撤去すべきだ」と回答し、多くの人が核兵器禁止条約への参加を求めた。政府の政策と民意は大きく違っている。

 私が暮らすベルギー西部のイーペル市は、第1次世界大戦中の1915年に世界で初めて化学兵器が使われたことで知られる。無差別殺傷兵器に反対する思いが根付いており、平和首長会議(会長・松井一実広島市長)の副会長都市も以前から務めている。国内の加盟都市は、実に計395に上る。

 私は市の担当者として8月6日と9日の追悼集会や原爆展を繰り返し、開いてきた。ヒロシマとナガサキは過去の歴史ではなく、私たちが直面する問題であることを知ってもらうためだ。

 また、第1次世界大戦の戦場となった平和首長会議加盟の国内18自治体による「Westhoek Vredeshoek(ウエストフック・フレーデスフック)」という反核・非暴力ネットワークの創設に携わった。政府に条約参加を促すため、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))とともに国内の各市長に賛同を募っている。すでに100近い都市から署名を取り付けた。

 欧州では現在、ウクライナ情勢が緊迫の度を増している。私たちは常に、核使用の危険と隣り合わせだ。非政府組織(NGO)や都市が連携して核保有国に圧力をかけ、今すぐ核兵器を廃棄させなければならない。(桑島美帆)

(2022年2月7日朝刊掲載)

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