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広島アンデルセン旧館 重厚な造り 復興の象徴 利用者 存続望む声も

 広島市中区の本通り商店街に唯一残る被爆建物、広島アンデルセン旧館に浮上した建て替え計画。被爆と復興を体現する歴史的建物は商店街のシンボルでもあるが、維持コストは重く、所有するアンデルセングループ(中区)は苦悩する。(桑島美帆)

 商店街にチェーン店の派手な看板が増える中、ルネサンス様式の壁面が存在感を放つ。「商店街で唯一重みを感じる建物。実際に使っているからこそ被爆の歴史が伝わる」。旧館内のレストランを利用する安佐北区の川原春江さん(72)は存続を求める。

 天窓から外光が差し込み、吹き抜けを太い柱が囲む。銀行だった被爆前の面影を残す店内で、石窯からパンが焼き上がる。創業者の故高木俊介氏は1967年に建物を買い取り、「食卓に幸せを運ぶ」をコンセプトに理想の店を実現。これを全国に広げた。

 強度を保つため太い柱は撤去できず、空調も効きにくい。妻の彬子さん(88)たちは「被爆した広島で商いを始めた。原爆に耐えた建物を壊してはいけない」と維持してきた。

 だが、老朽化は進む。46本の柱を鉄板で覆うなどした2002年には耐震工事に1億5千万円を要した。東日本大震災を受けて耐震性を高めるには、工費が大幅に増す見通し。バリアフリー化にも制約がある。「予算が限られ、今の構造で安全を維持しながら改装するのは限界に来ている」と高木誠一会長(65)は明かす。

 旧館は商店街のほぼ中央にあり1日約5千人が訪れる。「本通りのランドマーク。できるだけ残してほしい」とする広島本通商店街振興組合の下村純一理事長(63)も一方で、「安全面や企業の発展も考える必要がある」と話す。

被爆建物 66は民間所有

 広島市は爆心地から5キロ圏内にある86の被爆建物を台帳で管理し、このうち66施設は民間が所有している。「原爆被害を伝える遺産」(平和推進課)として、保存や活用の資金を助成する制度を設けている。

 制度は所有者の申請を審査し、3千万円を上限に保存工事費用の4分の3を助成する。広島アンデルセン旧館をめぐっては、1994年度の外壁保存工事に約2800万円を出した。

 取り壊し検討の動きを受け、市平和推進課は「全く同じ工事内容なら助成できないが、新たな工事なら可能ではないか。具体的な計画を見て検討する」としている。

 市はこれまで、広島赤十字・原爆病院(中区)や寺社など19施設の保存、活用に計2億2200万円を助成した。台帳で管理する建物は96年度には98施設あったが、老朽化や再開発で解体も進む。

 公共機関が所有する被爆建物の保存も課題が多い。広島県が所有する木造の旧広島港湾事務所(南区)は明治期に建てられた。県は商業施設として民間活用を期待するが、安全性の懸念などから事業者公募に至っていない。国と県が所有する、れんが造りの旧陸軍被服支廠(ししょう)(南区)は4棟の耐震工事に80億円以上が必要と見積もられている。(加納亜弥)

(2013年10月6日朝刊掲載)

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