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社説・コラム

『潮流』 良き隣人

■岩国総局長 片山学

 2021年3月12日、米空軍ステルス戦闘機F22ラプター6機が飛来―。こう書き出したメモが手元にある。米軍岩国基地の動きを追った、この1年間の記録だ。

 基地に所属しない外来機の飛来や陸軍の貨物船の寄港はあったが、記事にならなかったことの方が多い。実際に見たり聞いたりした内容を後でパソコンに打ち込む。軍用機運用などについては、「軍事機密」を理由に基地からはほとんど情報が提供されないからだ。

 基地からの情報の少なさは、新型コロナウイルス禍でも取材の壁になった。米軍基地が発端となった岩国市内での市中感染で、急拡大した昨年末以降、対応に追われている。基地の発表は新たな感染者数にとどまり、基地内での感染経路などは日本の保健当局にも提供されなかった。

 市民に濃厚接触の恐れがあるのかも分からず、フェンスの向こう側はブラックボックスのようだった。これでは、次の「波」を防ぐための検証もできない。

 コロナ禍以降、岩国基地は、日本国内で感染者が多い地域を「立ち入り禁止」に分類し、基地関係者の往来を厳しく規制した。基地の外にある学校や幼稚園に子どもを通わせることを控えるよう求めたこともあった。「ウイルスを基地に持ち込ませない」という強い意志を感じた。

 逆に、在日米軍での流行が先行した今回、クリスマス前後の岩国市内の繁華街で、マスクをせずに騒ぐ米軍関係者の姿が目立った。岩国基地では前年の同時期にも感染は倍増していたのに。周囲にうつさないという配慮と情報提供の足りなさが、感染拡大を招き、市民の不安感を高めた。

 基地側はよく、岩国市民の「良き隣人」だと強調する。この信頼関係を保つには、危機にどう対処するのか、迅速に情報共有して話し合う姿勢が必要である。

(2022年2月8日朝刊掲載)

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