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連載・特集

広島世界平和ミッション 米国編 アフター9・11 <1> 政権支持者

核大国の独善 広く浸透

 広島世界平和ミッション第六陣のメンバーは次の通り(敬称略)
 被爆者 松島圭次郎(76)=広島市佐伯区▽被爆者 村上啓子(68)=茨城県牛久市、広島市中区出身▽広島YMCA職員 スティーブ・コラック(50)=広島市佐伯区、米イリノイ州出身▽会社員(米ダートマス大経営大学院留学中)木村峰志(34)=米バーモント州、広島市安佐北区出身▽津田塾大3年 前岡愛(20)=東京都国分寺市、広島市東区出身

 広島世界平和ミッション(広島国際文化財団主催)の第六陣メンバーは四月一日から約四十日間、米国各地を訪ねて戦争防止や核軍縮に向けた対話を重ねた。一年余りをかけて計六陣が核保有国など十三カ国を訪問したミッションの締めくくりに選んだ米国は、二〇〇一年九月十一日の米中枢同時テロ以降、大きく変ぼうしたといわれる。その影響はどのような形で現れているのか。メンバーが触れた「9・11」後の「核超大国の今」を報告する。(文・岡田浩一 写真・松元潮)

 小型核兵器の研究開発、イラクへの先制攻撃…。国際世論を無視した「一国至上主義」とも批判されるブッシュ米政権。その政権を陰で支えるのがキリスト教原理主義と呼ばれる人々だ。

 一行は、その中核団体とみられる「クリスチャン連合」の元総裁で、キリスト教のテレビ伝道師として国民に絶大な影響力を持つパット・ロバートソン博士(75)に会うため、バージニア州バージニアビーチを訪ねた。同連合の会員数は数百万人といわれる。

持論を展開■

 「私に何がしてあげられるかね」。高級ジャケットに身を包んだロバートソンさんは、穏やかな口調でメンバーを迎えた。自らが議長を務めるテレビ局クリスチャン・ブロードキャスティング・ネットワーク(CBN)の一室。書斎風の部屋の壁には、ブッシュ元、現大統領父子やレーガン元大統領と話す博士の写真が飾られていた。

 「米国の新たな核兵器開発について、どう思われますか」。単刀直入に質問をぶつけた。

 「核拡散は困った問題だ」。博士は質問には答えず持論を語った。「米国は、北朝鮮やイランに核保有をあきらめさせようとしている。イスラム教徒のテロ組織は特に問題だ。核物質を使った兵器を大都市で使われると、大勢の犠牲者が出る。それを止めなければならない」

 米国の核兵器保有については「世界の平和を守るための抑止力は必要だ」と説明。さらに「例えば、イランがイスラエルを攻撃するというようなばかげたことが起こらないように、米国は核兵器を持っているのであり、自らすすんで使うことはない」と擁護した。

 ぶしつけとも取れる矢継ぎ早の質問に、柔和な笑顔を絶やさない。が、答えは取り付く島もない断定的な言葉の連続だった。

和解を否定■

 平和ミッションの使命の一つは、「和解」の呼び掛けである。問題視する国々や民族との対話の可能性を尋ねてみた。博士は「アルカイダのようなテロ組織は米国人数百万人の殺害も、自爆攻撃も辞さないやつらだ。北朝鮮の金正日も狂った独裁者。和解は無理だ」と決めつけた。

 広島・長崎の原爆投下にも話が及ぶ。「不幸にも罪のない人々が犠牲になったが、それは当時の日本の指導者のせいだ。独裁者は力で抑制しなければならない」

 米国人で広島YMCA職員のスティーブ・コラックさん(50)が怒りを押し殺しながら尋ねた。「キリスト教の教えに照らして、核兵器保有をどう思うのですか」

 博士はそんな質問にも動じることなく言った。「これまで、他国のひどい指導者が戦争を引き起こしてきた。聖書が望むのは平和と協調。その実現のため、世界に民主主義を広めないといけないのだよ」

 メンバーには独り善がりとしか思えない世界観。こんな考え方が、核超大国の市民に広く浸透しているようだ。

(2005年5月30日朝刊掲載)

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