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社説・コラム

天風録 『プーチンの威嚇』

 この国独特の黒っぽい土壌が穀倉地帯の証しだそうだ。「欧州のパンかご」と呼ばれるほど豊かなウクライナが90年前、思わぬ飢饉(ききん)に襲われ、数百万人が餓死した。ソ連の権力者スターリンによる農業政策の失敗だともいわれる▲苦難を強いた独裁者への反発からだろうか。第2次大戦では、敵のはずのドイツに味方した住民も少なくなかったらしい。黒海に突き出たクリミアを強奪された8年前からは、反発の対象がソ連からロシアに代わった▲今回、ますますロシア嫌いが増えたのではないか。プーチン大統領が国境付近に10万を超す兵士を派遣し、手出しさせまいとする欧米諸国と対峙(たいじ)している。平和的解決を探るフランスの大統領にも威嚇の言葉を投げ付けた▲NATOのロシア敵視を批判し、クリミアに手を出せば欧州も紛争に巻き込まれる、と。揚げ句の果てに、核兵器を使う可能性までちらつかせた。クリミア併合時も使う準備ができていたと述べていた。到底許せない▲北朝鮮の権力者をまねした瀬戸際戦術なのか。たとえ威嚇でも断じて認めない、核兵器禁止条約の必要性が増している。世界中の「独裁者」には、人類の未来を委ねられないのだから。

(2022年2月9日朝刊掲載)

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