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社説・コラム

『潮流』 屋根のない原爆ドーム

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 私の古里、北海道に住むめいの作品の画像がスマートフォンに送られてきた。新型コロナウイルス禍が始まる直前の2020年1月、ヒロシマ旅行を初めて体験した際の印象を絵にしたという。

 当時は小学5年生。原爆資料館では展示にショックを受けて気分が悪くなり「佐々木禎子さんの折り鶴」のはるか手前で見学を断念した。後に「また広島に行きたい」と言ってくれた。その意思は変わっていないようで、救われた気持ちになる。

 ただ、何だろう。この絵はどこか特徴がある。丸い屋根が紙幅からはみ出る構図。肝心の鉄骨部分がほとんど描かれていない。あらら…。

 平和記念公園から宮島へ行く「世界遺産航路」の船に乗り、窓越しに見た原爆ドームのたたずまいが心に残ったらしい。記憶と似た写真を探し出して参考にした、と後から聞いた。

 めいの母である私の妹に「屋根を入れた方がいいよ」と電話で指摘したくなったが、ぐっとこらえた。幼い頃から「原爆ドーム=丸い屋根」「核兵器=廃絶すべきもの」「8月6日=8時15分」などと教えられて育った広島市民は多いのではないか。そのような「常識」を持たないめいは、原爆被害を知るプロセスを試行錯誤しながら一つ一つ、踏んでいるのかも―。そう思った。

 実家から先日、作品が道内の美術展で入選したと便りがあった。時を同じくして、2年前に原爆資料館を途中まで案内してくれたピースボランティアの永原富明さん(75)が、被爆アオギリの種と被爆瓦のかけらを送ってくれた。いつか、原爆ドームに次ぐ作品の題材になるはずだ。

(2022年2月10日朝刊掲載)

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