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「ドライブ・マイ・カー」米アカデミー賞候補 濱口監督「広島から力」 復興の街 物語重なる

 「ドライブ・マイ・カー」が第94回米アカデミー賞の作品賞など4部門で候補になった濱口竜介監督(43)が9日、ベルリン国際映画祭で審査員を務めるため滞在中のドイツでオンライン記者会見を開いた。濱口監督は作品の主な舞台となった広島について「限りないほどの力を与えてくれた素晴らしいロケ地。またここで映画を撮りたい」と感謝を述べた。ロケ地の関係者にも、喜びと受賞への期待感が広がっている。(木原由維)

 妻を亡くした舞台俳優で演出家の主人公(西島秀俊さん)が国際演劇祭の開催地・広島を愛車で訪れ、専属運転手になった女性(三浦透子さん)と出会うストーリー。作品賞の他に監督賞と脚色賞、国際長編映画賞にノミネートされた。2020年11月から12月にかけ、広島、東広島、呉各市など広島県内でロケをした。

 濱口監督は会見で、「心に傷を抱えた主人公が広島で過ごすうちに希望を見つけていく。そんな姿が、原爆の被害から復興した広島の街に漂う精神性とつながっていく手応えがあった」と語った。「瀬戸内の光景も街並みに差し込む光も美しく、独特の力を持っている」と実感を込めた。

 ノミネートを受け、広島のロケ地は歓喜に沸いた。広島市安佐南区の安公民館では、駐車場が撮影に使われた。同館社会教育主事の為政久雄さん(60)は、撮影後に俳優やスタッフを前に「完成させます」と涙しながら語った濱口監督の姿が忘れられない。「受賞を心の底から願う」と喜ぶ。

 広島市在住の映画監督で俳優の前田多美さん(38)は、市中心部のバーで女性客を演じた。「世界の注目を浴びる作品に携われたことが幸せ。広島での映画づくりにとって大きな追い風になる」。主人公の内面が変化する重要な場面が撮られたグランドプリンスホテル広島(南区)の弓手理史事業戦略アシスタントマネジャー(45)も「コロナ禍に飛び込んだ朗報に励まされる」と声を弾ませた。

 発表・授賞式は、3月27日(日本時間28日)にロサンゼルスである。濱口監督は「授賞式は夢の舞台。そこにいる自分は想像しづらい」と笑った。

米アカデミー賞
 監督や俳優など第一線の映画人で構成する米映画芸術科学アカデミーが主催する賞。作品、監督や演技部門などの各賞を会員の投票で決め、「オスカー」と呼ばれるトロフィーが贈られる。2015年と16年に演技部門の候補者が全員白人となって批判を浴びた後、会員構成の是正に着手。20年夏までに女性を2倍強、マイノリティー(人種的少数派)を3倍以上に増やした。24年からは、女性や障害のある人の出演などを作品賞の応募基準に加える新規則も適用する。

(2022年2月10日朝刊掲載)

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