×

連載・特集

広島世界平和ミッション 米国編 第2部 反核の輪 <1> 非核都市 市民提案から宣言採択

 広島世界平和ミッション(広島国際文化財団主催)の第六陣一行は、米国の核兵器関連施設などを訪ね、止まらぬ核開発の現状を学んだ。一方で核軍縮に背を向けた母国の「独走」を押しとどめようと、汗を流す市民の活動ぶりにも接した。中央アジア非核地帯を実現した国連大使や、現政権の政策を疑問視する米政府の元高官らとも意見を交換。メンバーは核開発の現場に深い失望と怒りを覚えながらも、地道に「反核の輪」を広げ続ける市民や外交官らに勇気づけられた。(文・岡田浩一 写真・松元潮)

 「学校に参加を呼び掛けよう」「チラシはどうする?」。意見が相次ぐ。

「灯籠」継承■

 四月初め、カリフォルニア州バークリー市で活動する市民団体の代表ら十人が、サンフランシスコ湾を望む民家に集まった。議題は今年八月六日に開く「ランタン・フェスティバル(灯籠(とうろう)流し)」。

 昨年初めて、市民団体が垣根を越えて実行委員会をつくり開いた。市民約五百人が湾内の水上公園の水面に、灯籠を浮かべた。実行委の一人は「幻想的で素晴らしい光景だった。でもヒロシマの出来事を思い返して、核兵器を手放せない世界の行く末を考えさせられもした」と振り返る。

 今年も開く灯籠流しを前に「本場の様子が聞きたい」と、メンバーが会合に招かれた。被爆者の松島圭次郎さん(76)は、川で大勢が亡くなった六十年前の光景を織り交ぜて説明。「こちらでも灯籠流しを受け継いでいただいて、犠牲者に代わってお礼を申し上げます」と頭を下げた。

 バークリー市の人口は約十万人。一九六〇年代に広まった学生運動発祥の地で「リベラル(革新的)な町」として知られる。署名を集めれば、市民が議会に議案を直接提案できるなど、官民一体のユニークな制度がある。市が八六年に採択した「非核都市宣言」も、二千人余の署名を添えた市民提案だった。

 核問題に敏感な風土は、市内のカリフォルニア大バークリー校の歩みと無縁ではない。

 米国の核兵器開発は同校などでの基礎研究から始まった。現在もカリフォルニア大は、米国の核兵器開発の二大拠点施設ローレンス・リバモアとロスアラモスの両国立研究所の管理運営を担う。

 バークリー校のキャンパス内には実験用原子炉があり、南東約五十キロ先にはローレンス・リバモア研究所が位置する。近年は事故に加え、テロ攻撃という新たな不安も浮上し、周辺住民の危機感は増している。

 同市に隣接するオークランド市で子ども美術館の館長を務める日系二世の河村尚実さん(28)も実行委の一人だ。「米国は核兵器を使う方へ進んでいるようで怖い」と言う。亡き父は広島市の出身。「米国人の大半は世界の意見を気にしていない。父の古里の歴史を伝え、利己的な考え方を変えたい」と意気込む。

 実行委員長でウェブデザイナーのスティーブ・フリードキンさん(50)は、市が設ける「平和と正義委員会」の市民代表も務める。同委員会は市議を含む十五人。二〇〇一年十月には議会への提案権を使って、アフガニスタンへの空爆停止を求める決議を採択した。

平和の響き■

 会合の翌日、フリードキンさんは、市役所前にある非暴力の象徴「平和の鐘」へ案内してくれた。警察が回収した銃五百丁余りを溶かして五年前にできた。市内で人権や反核の催しを開く際に澄んだ音を響かせる。

 その鐘を前にフリードキンさんは「核廃絶のためにバークリー市民も頑張る。あなたたちも、日本政府が米国の核政策に反対するよう働き掛けてほしい」とメンバーに呼び掛けた。

 松島さんらは目方以上の重みを感じる撞木(しゅもく)を受け取ると、鐘を交代で突いた。核超大国の市民に「反核の輪」が広がることを願って。

(2005年6月8日朝刊掲載)

年別アーカイブ