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広島世界平和ミッション 米国編 第2部 反核の輪 <2> 厚い壁 兵器開発・保管 説明なく

 サンフランシスコ市の東約七十キロ。高速道路を一時間走ると、ローレンス・リバモア国立研究所に着いた。研究所の敷地の広さは約二キロ四方。周囲には住宅が密集している。

 ミッション一行は、案内役の女性職員ダイアン・ネルソンさんに迎えられ、ビジターセンターへ。住所、名前などを所定の用紙に書き込む。顔写真の撮影があり、身分証明カードを作った。

 施設を見たい一心から、三十分余もかかる手続きに全員根気よく従った。見学用の小型バスにはメンバー四人、報道陣二人、地元の反核環境団体「トライバリー・ケアーズ」の三人、そしてネルソンさんを含む職員四人が乗り込んだ。

 ネルソンさんは敷地内をバスで移動しながら、研究所内にカフェテリアが三カ所、自由に使える自転車が八百台、充実した運動施設があることなどを、よどみなく説明した。「職員八千人中、博士号取得者は二百人。職員百人当たりの博士の数は全米有数よ」と誇ってみせる。

 バスが止まり、建物内を見学できたのは四カ所。大気汚染の監視システムや生物化学兵器の検知機、人間の遺伝子などの研究棟だが、いずれも核兵器開発とは無関係だ。核開発に使われているスーパーコンピューターの前でも足を止めたが、すぐに内側からブラインドが下ろされた。

 水爆の起爆装置であるプルトニウム・ピットをレーザーを利用して起爆しようとするレーザー実験施設「NIF」は屋内サッカー場ほどもある。だが、バスはそこへ近づこうともしない。

対応に憤り■

 「ほとんどの施設が核兵器開発に使われているはずなのに、全然説明しない」。米国人で広島YMCA職員のスティーブ・コラックさん(50)は、研究所側の「不誠実な」対応に憤った。

 トライバリー・ケアーズのマリリア・ケリー代表(53)らが情報開示法に基づいて調査した結果、研究所の年間予算は十五億ドル(約千五百七十五億円)。うち八割が核兵器関連に費やされる。

 「止めて、止めて」。バスの中でケリーさんが声を上げた。かたくなに拒むネルソンさんと押し問答の末、数分だけ下車が許された。

 バスを降りたケリーさんは、かなたの保管庫を指し「事故などによってこれまでに七万五千キュリーのトリチウム(三重水素)のガスが放出された」と大急ぎで告げた。トリチウムはベータ線を放出する半減期約十二年の放射性物質だ。

 彼女はさらに、左脇のプルトニウム保管庫について「米政府の核兵器開発再開の方針に伴って、これまでの水爆百五十個分の二倍の量を貯蔵しようとしている」と説明。ずさんな管理にも触れた。

 同研究所から漏れたトリチウムなどの放射性物質は、住宅街の地下水に浸透し住民の健康を脅かしている。ケリーさんは「住民の皮膚がんの発生率は、全米平均の二倍に達する」と言う。

職員耳打ち■

 その後、ネルソンさんとは別の同行の女性職員がそっと記者に近づき「彼女(ケリーさん)たちの主張は事実ではない」と耳打ちした。研究所の「本性」を垣間見た気がした。

 見学後、被爆者の松島圭次郎さん(76)は「世界初の被爆者として、この施設には複雑な気持ちを抱かずにはいられない。原爆のような残虐な兵器は二度と使われるべきではない」と英語でネルソンさんに告げた。「優秀な頭脳が、世界の平和のために使われますように」とも訴えた。

 すると、それまでオーバーに笑顔を振りまいていたネルソンさんは目を赤く染め、無言で松島さんの手を取った。二人のやりとりを見守ったコラックさんは「最後にやっとネルソンさんの心が少し動いたね」と笑顔を浮かべた。

(2005年6月9日朝刊掲載)

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