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表現通し広島とつながり 石内都さん・梯久美子さん対談

 アートには被爆地広島と多くの人をつなぐ力がある―。被爆者の遺品を撮り続ける写真家の石内都さんと、戦争史に光を当ててきたノンフィクション作家の梯(かけはし)久美子さんが、「“ひろしま”との出会い」と題し、広島市中区の広島県立美術館で対談した。

 同市内の美術館3館による合同企画展「アート・アーチ・ひろしま2013」の記念対談。会場の一つ、県立美術館には石内さんの連作写真「ひろしま」の8点が並ぶ。

 赤いバラのボタンが付いたブラウス、チェック柄のドレス…。あの日まで少女らが身に着け、現在は中区の原爆資料館に収まる。石内さんは35ミリフィルムのカメラを向け、自然光で撮影する。「物として撮っていない。少女たちと対話し、今一緒にいるという現実感を私の目線で捉えている」と話す。

 群馬県出身で、神奈川県横須賀市育ちの石内さん。広島での撮影は編集者に誘われた2007年から。初めて訪れた被爆地は戦後の反戦平和の歩みに「がんじがらめ」のようだった。「遺品たちをもう少し自由にしたいと感じた。よそ者だからずうずうしく言えることもある。でも、それって大切だと思う」

 一方、梯さんは熊本県出身。太平洋戦争末期の硫黄島戦を追った「散るぞ悲しき」(新潮社)などを刊行してきた。「当事者や遺族でもない自分が戦争の悲劇を自己表現の素材にしてもいいのか自問した」と振り返る。

 取材中、一通の遺書を手にした。自宅の修繕をせずに硫黄島の戦地へ赴いたことを妻にわびる内容。「原物が語る重みをかみしめた」と言う。

 梯さんは10年1月から半年間ほど、石内さんを取材。原爆資料館での撮影にも立ち会った。「私自身、広島とつながった気持ちになった。いろんな表現があっていい。それが過去の戦争を知る回路になる」と話した。

 石内さんは「感じるままを感じてもらえれば。少しでも自分で伝えたい言葉を紡いでほしい」と語り掛けた。(林淳一郎)

 合同企画展は県立美術館、ひろしま美術館(中区)、市現代美術館(南区)で14日まで。

(2013年10月9日朝刊掲載)

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