×

連載・特集

知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態 第2部 裏庭の脅威 米国 <2> 汚染除去 経費多大、めど立たず 敷地外流出の恐れ

 「スターメッツ社の汚染状況は深刻です」。マサチューセッツ州職員で環境アナリストのスティーブン・ロバーソンさん(41)は、同僚の現場調査官クリストファー・パイアットさん(39)と同社の見取り図を前に顔を見合わせた。「問題は汚染除去作業に必要な経費をどこからひねり出すかなんですよ」  同州ウィルミントン市の州政府環境保護局北東支部ビルの一室。二人は、コンコード町にあるスターメッツ社(旧核金属社)の放射能汚染問題の担当者である。

10億円を見積もる

 「一九九七年から九八年にかけて、劣化ウランなどのスラッジ(汚泥状の廃物)をため池から取り除いたのは一歩前進。しかし、クランベリー湿地のスラッジや地下の汚染水、汚染土壌を取り除くには前回以上の金が必要でね…」。ロバーソンさんらは思案にくれる。

 州環境保護局の見積もりでは約一千万ドル(約十億七千万円)。地下の汚染状況の広がり次第では、五倍に膨らむ可能性もあるという。

 本来は汚染源のスターメッツ社が負担すべきなのだろうが、ここ数年は軍との契約が少なく、経営不振が続く。従業員も百人足らずと最盛期の六分の一以下に減少した。州政府にもその資金はない。前回のように陸軍に頼るか、連邦政府環境保護局が国内の最汚染地区の除染を目的にプールしている「スーパーファンド」資金の適応を受けるほかない。

 しかし、地元の上下両院議員らの軍への働きかけにもかかわらず、「軍の財布のひもは固い」とロバーソンさん。

 一方で、スーパーファンド適応認定地となるには、コンコード住民に抵抗があるとも。「町には歴史や文化への誇りがあり、高級住宅地としてのイメージも定着している。認定でイメージが崩れ、不動産価格も下がるというわけだよ」

 ロバーソンさんらは、住民参加のタウン・ミーティングなどで州の立場を説明してきた。基本は住民の選択を尊重しつつも、「除染作業ができれば資金源は問わない」との姿勢である。

 「汚染物質の放置ほど、危険なことはない。社の敷地外に広がるようでは、町のイメージなんて言ってられないからね」と、パイアットさんが言い添えた。

国の甘い規制 問題

 それにしても、なぜスターメッツ社の汚染がここまで放置されたのか。

 「核物質を扱っている以上、営業の許認可は原子力規制委員会(NRC)が握っている。日々の活動への規制や監視も、NRCが中心。が、実質的な規制はなく、八五年まではほとんど野放し状態だった」

 ロバーソンさんの説明を聞きながら、昨年九月に茨城県東海村の核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JCO)で起きた臨界事故のことを思った。ずさんな作業実態を放置した科学技術庁の在り方は、そのままNRCの規制の甘さと同じである。

 州環境保護局が調査のため、スターメッツ社に初めて入ったのが八五年。それも劣化ウランによる放射能汚染ではなく、工場内にある井戸水が化学溶液で汚染されていたためだった。本格的な放射能汚染調査を始めたのは九一年に入ってからである。

地下水移動を警戒

 今ではため池の周りの地下水の劣化ウラン含有量は、一リットル当たり八万七千マイクログラムと、州の上水用基準(一リットル当たり二十八マイクログラム)の約三千百倍。土壌は一キログラム当たり平均四百六十ミリグラムで、州のクリーンアップ基準(一キログラム当たり二十ミリグラム)の二十三倍にも達している。汚染地下水は、既にため池からアサベット川方向の敷地境界に向かい、大きく移動しているとみる。

 「前回はスラッジを取り除くだけで要請から七、八年かかった。だが、その余裕はもうない」。ロバーソンさんらの表情には、危機感すら漂っていた。

(2000年4月25日朝刊掲載)

年別アーカイブ