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広島世界平和ミッション 米国編 第2部 反核の輪 <5> 異例の決議 「ヒロシマ」が採択へ力

 人口約六万五千人のサンタフェ市。その中心部に木造二階建てのこぢんまりした市庁舎はあった。ミッション第六陣メンバーが庁舎内の市議会を訪ねると、議場は反核決議をめぐる舌戦でヒートアップしていた。

核廃絶願う■

 「地方自治体が政府の方針に反する決議をするべきではない」とひげを蓄えた古参議員。若手議員は「本市の市長も加わる非政府組織(NGO)の平和市長会議は、活発に活動している」「核軍縮は世界中の市民の声だ」と応戦した。結局、賛成八、反対一で採択された。

 決議文は「核兵器の新鋭化、設計、製造工場の新設などは危険と見なされるべきだ」と自国政府の核政策を批判。「人々の安全保障が大量破壊兵器とそれを使用する意志の上に築かれるとする考えは、非道徳的な見解だ」と訴えている。

 さらに、①核拡散防止条約(NPT)などの国際条約に準じた積極的、体系的な核兵器の廃絶②すべての大量破壊兵器にまつわる国際条約の交渉③核兵器および部品製造のための施設建設の禁止④ニューメキシコ州での核廃棄物処理の停止―の四点を政府に求める。

 決議案と併せて賛同署名五千五百人分も提出されていた。この人数は、実数以上の重みがある。

 サンタフェ市の北西約六十キロに原爆を製造したロスアラモス国立研究所がある。職員一万人余を抱える研究所は、同市にとっても最大規模の雇用主だ。同州は他にサンディア国立研究所や廃棄物隔離パイロットプラントもあり、核産業への依存の高さから「核のコロニー」とさえ呼ばれる。

 署名を集めた反核市民団体「ロスアラモス・スタディー・グループ」のグレッグ・メロー代表(55)は「核施設の関係者がいる家庭も多く、住民は核問題に触れるのを恐れている」と明かす。

 そんな閉塞(へいそく)感を打ち払うのに、ひと役買ったのが平和ミッションだった。決議が審議された日の一週間前にサンタフェ入り。メンバー四人は地元の大学が運営するラジオ局の番組への出演や市民交流会などに走り回った。

 「平和ミッションを迎える準備は二カ月前に始めたが、当時はまだ決議の見通しがなかったから、今ほど強い意義を感じなかった」とメローさんは正直に告白する。

 しかし、決議が現実味を帯びるにつれ、ミッションの役割がはっきりしてきた。「結局、訪問はこれ以上ないタイミングだった。広島の悲劇を伝えることによって、市民に対して核兵器廃絶の重要さをより明確に打ち出せた」と評価した。

 実は決議の三日前、サンタフェ市長の元へ、平和市長会議会長の秋葉忠利広島市長が国際電話をかけ、決議の成立を働きかけた。チャベス議員は議会でも、決議が国際的な支持を受けている証明として紹介した。

再訪に期待■

 こうした機運の盛り上げに、広島が役立つ現場に立ち会い、メンバーも強く励まされた。米東部の大学院に留学中の会社員木村峰志さん(34)は「日本企業の進出など、ニューメキシコ州が核依存体質から脱却するために、被爆国日本や広島に手助けできることはないだろうか…」と一歩進んだ支援に思いをはせる。

 あれこれ「連携プレー」を練るメンバーに、チャベスさんは抱負を語った。「『核兵器の町』とのあしき伝統を子どもたちに残したくない。今後は、若い世代が核兵器による過ちを繰り返さないよう、平和教育に力を入れたい」

 メローさんも「教員から養成しないと…。広島・長崎で何が起こったのかという事実を知れば、多くの米国人の核兵器への考え方はきっと変わる」と力説。ミッションメンバーの再訪をはじめ、広島や長崎の人々の訪問に期待を寄せた。

(2005年6月14日朝刊掲載)

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